道尾秀介 02


向日葵の咲かない夏


2008/08/25

 道尾秀介さんのデビュー作『背の眼』に対する僕の個人的評価は今ひとつだったが、第2作にして大爆発した。ジャンル分け不能、何でもありの倒錯した世界。

 夏休みを迎える終業式の日、ミチオは先生に頼まれ、欠席したS君の家を訪れた。すると、S君は首を吊って死んでいた。ところが、学校に戻って連絡すると、S君の死体は忽然と消えていた…。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。

 主人公のミチオ(姓ではない)は小学4年生。ミチオはS君の訴えを受け、事件を追い始める。小学生が主人公とは思えない設定だ。こんな夏休みは嫌だ。S君が何に姿を変えたのかは書かないでおこう。何で〇〇に? とか突っ込み出すと先に進めない。

 ミチオにはミカという3歳の妹がいるのだが、母の扱いが露骨に違う。ミチオは肉体的暴力こそ受けていないものの、立派に児童虐待ではないか。母がミチオにだけ辛く当たる理由は最後に明らかになるのだが…。同級生の死に始まり、連続動物虐殺事件、ある教師の…。よくもまあ、げんなりさせられる設定ばかり揃えたものだと感心してしまう。

 序盤では、おどおどしているミチオに対し、ミカの聡明さが目立つ。本当に3歳なのか? ミカの謎については終盤で明らかになるのだが…。ミチオ、ミカ、S君のトリオが捜査を続けるうちに、ミチオはどんどん言動が大人びていく。同時に、ミチオの内に隠された残虐性が顔を覗かせる。S君をもてあそぶシーンにぞくりとさせられる。S君は最後に…。

 これだけの謎をどのように決着させるのかと思ったら…。通常、僕はこういう結末に厳しい。本作も到底納得したとは言えないが、不思議とこういうのもありかなという気分にさせられた。ミチオに共感できる読者の方が少ないだろうし、突っ込みどころ満載だが、作品世界は極めて巧緻。基本的なフォーマットは本格であることが最後にわかる。

 『背の眼』の解説によると、本作は一部の読者から「物語が陰惨」などと非難されたという。実際陰惨だ。しかし、道尾秀介は反論する。描いてある感情すべてにすんなりと同感できるような小説に、意味はない。あなたは道尾秀介の挑発に乗るか?



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