道尾秀介 04


シャドウ


2008/02/11

 『このミス』第3位、『文春ベスト10』第10位、『本ミス』第6位。2006年に年末3大ランキングすべてでベスト10入りを果たした唯一の作品である。本格として高く評価されており、実際翌2007年には第7回本格ミステリ大賞を受賞している。

 最初にお断りしておきたい。僕はこういう真相に寛容な読者ではない。この手の作品にぶち当たる度に感じたのは、驚きではなく落胆だった。残念ながら本作もまた然りである。「本格」観は人それぞれとはいえ、個人的に「本格」としては疑問に思う。

 医科大学の同級生だった我茂洋一郎と水城徹。現在、徹は大学の研究室に、洋一郎は大学病院に勤務しており、徹の娘の亜紀と洋一郎の息子凰介は幼なじみであった。家族ぐるみで付き合ってきた両家だが、洋一郎の妻の咲枝が癌で他界する。それからほどなく、徹の妻の恵が飛び降り自殺してしまう。徹が勤務する研究室の屋上から…。

 最初から重苦しい展開である。我茂家と水城家に何があったのか? 本格に限らず、僕がミステリに求めるのは「驚き」であり、リアリティ云々にはある程度目を瞑ってもいい。悲劇はだめなんて言う気は毛頭ない。わくわくしなくても最後に驚ければいい。

 第一の罠には早い段階で気づいた読者も多いだろう。鈍い僕が違和感を感じたのは「あの」シーンなので、かなり遅い。そして第二の罠。…むう、医師だって人間、決して全知全能ではないだろうが、こんなことが通用してしまっていいのか?

 リアリティ云々にはある程度目を瞑っていいと書いたくせに、医学が絡むと話は別だと開き直る。『ソロモンの犬』では「よくある手のバリエーションだが、使い方にひねりを効かせている」と書いているくせに、本作の「よくある手」は許容できない。勝手なものだと自分でも思うが、構成力が優れているだけに、小手先以上に感じられなかったのは残念。

 難しいテーマを扱っているし、万人が納得する解はないとも思う。本作の本格としてのポイントは、二つの罠にあるだろう。しかし、僕が思うに、本作の最大のキモはあの手紙の中にあるように思う。巻末の参考文献一覧に最初に目を通しちゃだめよ。



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