道尾秀介 06 | ||
ソロモンの犬 |
去る11/11に立教大学で開催された日本推理作家協会60周年記念イベント『作家と遊ぼう! MYSTERY COLLEGE』で、道尾秀介さんにサインをしていただく機会があった。第7回本格ミステリ大賞受賞作である『シャドウ』が話題になっていることは承知していた。しかし、その時点では1冊も読んだことがなかったのだから、我ながら厚かましい。
最初に読む道尾作品が最新刊である本作になったのは、サイン会で指定された作品が本作だったからなのだが…そんなことはさておき、読み始めてすぐに感じたことがある。失礼を承知で書くが、この雰囲気は伊坂幸太郎に似ているということだ。
大学生の男女が登場する青春群像というだけなら『砂漠』を連想はしない。『砂漠』ほど登場人物がエキセントリックではないものの、文体や台詞回しにどことなく共通点を感じてしまった。最初にそういう先入観を持ってしまうと、なかなか払拭できない。
一方、大きな違いは「謎」に重きを置いているかどうか。誰も死なない『砂漠』に対し、本作は序盤で少年の命が失われるという衝撃的な展開である。少年の死の謎を追う過程で、さらに衝撃が続く。本作の方が、よりミステリーに軸足を置いていると言える。
キャラクターに目を向けると、京也とは対照的に恋愛慣れしていない主人公の秋内に好感を持った。この空気の読めなさは、自分の学生時代を見ているようで苦笑する。また、4人の学生たち以外に脇役が光っている点も見逃せない。特に動物学者(?)の間宮は、終盤に近づくほど存在感を増し、冴えない風貌に似合わない(失礼)活躍を見せる。
不運な偶然の連鎖と言うしかない真相。間宮が語るからこそ辛うじて説得力を持つ。しかし、本当の罠は別にしかけられていた。もちろんここには書けないが、道尾さんもお人が悪いねえ。よくある手のバリエーションだが、使い方にひねりを効かせている。
悲しい中にも青春記らしい甘酸っぱさを織り込み、最後はきれいにまとまっている。十分に水準以上のいい作品だ。しかし、序盤で感じた先入観を最後まで引きずってしまった。道尾秀介の個性とは何か。それを知るために、他の作品も読んでみよう。