湊かなえ 01


告白


2010/04/16

 デビュー作にして、『このミステリーがすごい!』第4位、『文春ベスト10』第1位、本屋大賞受賞。その後味の悪さは耳にしてたが、文庫化を機にようやく読んでみた。

 そんなに大騒ぎされるほどの作品かなあ? というのが読み終えた率直な感想だ。どんなに重い話かと期待していたのに。いや、重い話には違いないんですよ。それなのに、全体的な印象はむしろ滑稽だ。衝撃を受けた読者の方が多数派で、僕の感覚が麻痺しているのかもしれない。でも、やっぱりブラックユーモアにしか思えない。

 第一章「聖職者」。辞職する女性教師が、終業式で生徒に語ったこととは。淡々と語る口調は無念さを際立たせる。そして判決が下された…。実はこの時点で苦笑していたのだが、掴みはとしてはなかなかいい感じだと思っていた。第一章は単独の短編としても第29回小説推理新人賞を受賞しており、完成度はそれなりに高い。

 以下の章では、事件に関係した人物の間で視点が変わる。『告白』という全編に冠せられたタイトル通り、いずれも告白形式である。第二章「殉教者」。辞職した女性教師の後任は、若い男性教師。この自称熱血教師の痛々しさばかりが印象に残った…。

 第三章「慈愛者」。ある少年の母の日記が、これまた痛々しい。根本的に子育てを間違っている気が…。第四章「求道者」に至って事件の詳細が明かされる。いいように利用され、転落した彼だが、短絡的すぎて同情する気がまったくしない。

 第五章「信奉者」。ついに少年Aの核心に迫るか。成績優秀で、自分以外は馬鹿に見える。この年代にありがちな青臭さを、成熟と勘違いしている辺りはやはり子供。そんな彼が信奉しているのは…。その歪んだ理屈に、ただ呆れるだけ。

 そして第六章「伝道者」。生意気な少年Aがどういう反応を示したかは明かされない。誰も救われない結末。しかし、全編が作りものじみているというか、からっとしているんだよなあ。作中の人物たちが感じたであろう苦痛が、さっぱり伝わってこない。

 井上夢人さんの『魔法使いの弟子たち』の後に読んだのがよくなかったか。中途半端に現実離れしているような。フィクションの力はこんなものじゃないはずだ。



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