宮部みゆき 05 | ||
レベル7 |
時には温かく、時には冷たく。決して一概には言えないが、僕なりに宮部作品の特徴を簡潔に述べるとこんなところである。そういう点では、純粋なサスペンスである本作は、異色の部類に入るだろうか。
目覚めたら記憶を失っていた、若い男女。腕には「Level 7」の文字が。一体何があったのだ? 自分たちは何者なのか…。一方、レベル7まで行ったら戻れない…という謎の言葉を残して失踪した女子高生。少女の行方を探す、カウンセラー。
二つの追跡行が並行して、物語は進む。作中の経過時間は四日間。文庫版で約660pの大作だが、緊迫感が途切れることはない。「レベル7」をキーワードに、二つの追跡行が交錯した果てに浮かび上がる、真相とは…。
数ある宮部作品の中でも、本作ほど登場人物が印象に残らない作品はないのではないか。僕は本作を読んでいて、登場人物にほとんど感情移入しなかった。彼らはそれぞれに複雑な事情や辛い過去を抱えているのに、である。うがった見方かもしれないが、僕が本作を「異色」だと感じる理由はその点にある。
彼らは皆、与えられた役割に従う役者であり、読んでいる僕は最後まで傍観者だった。こういう書き方をすると誤解を招きそうだが、決してつまらない作品ではない。十分すぎるくらい面白い。ただ、僕にとっては純粋に謎を楽しむ作品だったと思う。
そんな中で、事件の黒幕だった人物は哀れな男だと思った。地元の名士として幅を利かせる人物が辿った、なれの果て。彼が握った絶対権力は、地元だけのもの。それなのに、調子に乗りすぎたね。井の中の蛙は、最後まで井の中の蛙だった。
なお、『パーフェクト・ブルー』に登場した、蓮見探偵事務所の蓮見加代子探偵が友情出演(?)している。