宮部みゆき 19


幻色江戸ごよみ


2000/06/11

 本作は、宮部さんの時代物作品の中でも、一つの到達点と言える作品だろう。睦月から師走に至る、四季の変化をたどった12編から成る連作短編集である。

 宮部さんが如何に端正込めて本作を書き上げたか、読んでみればよくわかるだろう。ただし、その完成度の高さ故に、取っ付きにくい印象を受けるかもしれない。僕も読んでいて、何だか襟が正されるようだった。

 好編揃いの本作であるが、文庫版の解説を書いている縄田一男氏は、中でも第十話「神無月」を強く推している。「神無月」は確かにうまい。長編にアレンジしてほしいくらいだ。第四話「器量のぞみ」のように、めでたしめでたしで終わるような話にも結構弱かったりする。しかし、僕が最も印象に残った一編を挙げるとすれば、第二話「紅の玉」になる。

 どちらかといえば心温まる作品が多い本作にあって、「紅の玉」の救いのなさは一際異彩を放っている。悪夢と言うしかないこの物語には、色々な意味で現代社会に通じるものを感じる。昔も今も、お上は何と理不尽なことか。ところが、全体から浮き立っているかというとそうでもないから、不思議である。

 また、第五話「庄助の夜着」のように日常の怪異を描いた作品が多いのも注目される。話がずれるが、宮部さんは現在季刊「怪」(角川書店刊)にて怪談「江戸ふしぎ噺」を連載中である。本作を上梓した時点で、宮部さんが怪談を書きたいと思っていたかはわからないが、こちらも単行本化が楽しみだ。 → ※単行本化されました。

 僕は基本的に時代物作品には疎いのだが、本作のように庶民の視点で描かれた作品は少数派なのではないだろうか。だからこそ、訴えるものがあるのだろう。



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