宮部みゆき 32

あやし

〜怪〜

2000/07/31

 『ぼんくら』に続く新作は、またしても時代物である。本作で、宮部さんは本格的な怪談に挑んでいる。全9編、いずれも割り切れぬ謎が残される。

 「居眠り心中」で、銀次が見た二人は。
 「影牢」で、市兵衛とお夏を恐怖に陥れたものは。
 「布団部屋」で、お光に取り憑いたものは。
 「梅の雨降る」で、箕吉が見た姉の顔は。
 「安達家の鬼」で、笹屋の大内儀がとうとう名を告げなかった鬼は。
 「女の首」で、太郎と葵屋夫婦にしか見えなかったものは。
 「時雨鬼」で、お信を諭したのは。
 「灰神楽」で、おこまが火鉢に見たものは。
 「蜆塚」で、松兵衛が語ったもの、そして米介の前に現れたものは。

 …一体何だったのだろう?

 時代物作品としては相変わらず質が高い。しかし、怪談としての怖さをもう少し追求してほしかったかな。宮部さんの時代物作品の根底に流れる温かさや優しさが、本作に限ってはパンチを弱めてしまっている気がする。宮部さんがその気になれば、きっと書けるはずだ。『東海道四谷怪談』などの古典作品に劣らない、身の毛もよだつ怪談を。

 「時雨鬼」、「灰神楽」に登場する政五郎親分は、『ぼんくら』に登場した政五郎と同一人物なのだろうか。政五郎にそんな過去があるとは…。

 時代物が二作続いたが、次作は現代物が読みたいな。



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