宮部みゆき 32 | ||
あやし |
〜怪〜 |
『ぼんくら』に続く新作は、またしても時代物である。本作で、宮部さんは本格的な怪談に挑んでいる。全9編、いずれも割り切れぬ謎が残される。
「居眠り心中」で、銀次が見た二人は。
「影牢」で、市兵衛とお夏を恐怖に陥れたものは。
「布団部屋」で、お光に取り憑いたものは。
「梅の雨降る」で、箕吉が見た姉の顔は。
「安達家の鬼」で、笹屋の大内儀がとうとう名を告げなかった鬼は。
「女の首」で、太郎と葵屋夫婦にしか見えなかったものは。
「時雨鬼」で、お信を諭したのは。
「灰神楽」で、おこまが火鉢に見たものは。
「蜆塚」で、松兵衛が語ったもの、そして米介の前に現れたものは。
…一体何だったのだろう?
時代物作品としては相変わらず質が高い。しかし、怪談としての怖さをもう少し追求してほしかったかな。宮部さんの時代物作品の根底に流れる温かさや優しさが、本作に限ってはパンチを弱めてしまっている気がする。宮部さんがその気になれば、きっと書けるはずだ。『東海道四谷怪談』などの古典作品に劣らない、身の毛もよだつ怪談を。
「時雨鬼」、「灰神楽」に登場する政五郎親分は、『ぼんくら』に登場した政五郎と同一人物なのだろうか。政五郎にそんな過去があるとは…。
時代物が二作続いたが、次作は現代物が読みたいな。