宮部みゆき 20 | ||
夢にも思わない |
サッカー部の緒方君、将棋部の島崎君の中学生コンビが活躍する第二弾。前作『今夜は眠れない』は、全体としては綺麗すぎるくらい綺麗にまとまっていたが、本作は前作のような作風を予想していた読者を、あっさりと裏切るに違いない。
読了した瞬間、世界は暗転する。救いようがないほど残酷かといえばそんなことはないのだが、とにかく「痛い」。この紙で指を切ってしまったような鈍い痛みを、何と伝えればいいのか。
秋の夜、下町の庭園で催された虫聞きの会で、殺人事件が発生する。犠牲者は、緒方君の同級生であるクドウさんの従姉、森田亜紀子だった。彼女は少女売春との関わりが取り沙汰されており、無責任な噂が後を絶たない。大好きなクドウさんのために、緒方君は親友の島崎君と共に真相の究明に乗り出すが…。
緒方君、島崎君のコンビが調査を進めるにつれ、クドウさんと犠牲になった森田亜紀子との微妙な関係がじわじわと浮かび上がる。亜紀子はクドウさんにとって恐怖の存在だった。亜紀子の人物像には、僕も薄ら寒さを感じる。だから、クドウさんの防衛本能は理解できる。しかし、一方で亜紀子の悲痛な叫びも理解できる。
終盤に差し掛かり、緒方君は島崎君が自分に何かを隠していると敏感に感じる。それは、親友としての思いやりだった。しかし、事件に関わった以上真相を究明せずにはいられない、悲しい性。中学生ならではの潔癖さが、そうさせるのか。
緒方君にはわかっていたんだろう。わかっていたけど、思いとは裏腹の言葉を発してしまったのだろう。クドウさんの痛み。亜紀子の痛み。緒方君の痛み。そして読後に残された、読者の痛み…。一概に誰が悪いとは言い切れない。少女売春組織の背後で糸を引いていた連中を除いては。
思春期ならではの、甘酸っぱさと痛さ。宮部みゆきの二面性の真骨頂である。