宮部みゆき 27 | ||
心とろかすような |
マサの事件簿 |
『パーフェクト・ブルー』以来の東京創元社刊であり、蓮見探偵事務所の用心犬マサの再登場である。
いかにも可愛らしい装丁と、タイトルに騙されてはいけない。本作をただのハートウォーミングな短編集だと思って読んだら、宮部さんの思う壺である。
マサの目を通して語られるのは、人間社会の汚さ、そして人間という生物の醜さである。マサを飼っている蓮見探偵事務所の面々は、幸いなことに心優しい人たちばかりだが、だからこそよけいに人間の身勝手さが際立つ。長らく警察犬として働いてきたマサ。その彼の目に、人間たちの愚かさはどのように映ったのか?
人間の醜さが最も如実に描写されているのは、唯一書き下ろしで収録された「マサ、留守番する」だろう。欲求不満を動物にぶつける人間たち。抵抗する術を持たない動物たち。蓮見家の愛情に包まれたマサの心中は、さぞかし複雑だったに違いない。読者はただただ憂鬱になる。ペットを飼っている方なら、なおさらだろう。しかし、マサを語り部に据えることにこれほど意味がある物語はない。
「白い騎士は歌う」の犯人は、本当に許しがたい。人命を奪っておいて、そんな身勝手な言い訳が通用すると思うのか? こんな愚かな親がいるから、少年による凶悪犯罪が続発するのではないか。今思い出しても、心底腹が立つ。僕は親に誉められたことはあまりないのだが、それはそれで良かったのかもしれないなどと、ふと思ったのだった。
本作は、数ある宮部さんの短編集の中でも一二を争う傑作だと僕は思っているが、読んでいてあまり救いがないのも確かだ。最後の「マサの弁明」が救いかもしれない。まあ、洒落ということで。