宮部みゆき 30 | ||
クロスファイア |
宮部作品初の映画化が決定した作品である。それに伴い、ノベルスの装丁が一新されたが、何だか角川書店を彷彿とさせるような…。映画の出来が大いに心配される。 → ※映画の感想はこちらへ。ネタに触れています。
本作の主人公、念力放火能力者の青木淳子は、『鳩笛草』に収録の短編「燔祭」で初登場している。この作品の読後感が、僕にはとても重かった。それに加えて、本作があまり救いのある物語ではないと聞いていたので、購入はしたものの長らく本棚で埃を被っていた。
で、刊行から半年以上も経ってようやく読んでみたのだが…思った通り、上巻の最初から重い。凶悪犯浅羽敬一と遭遇するオープニングに、いきなり衝撃を受ける。実際、最初の50pくらいで読むのを止めてしまった方がいたそうだ。しかし、そこを耐えて読み進むと、下巻に入ってがらっとカラーが変わる。分冊刊行された意味が、何となくわかるような気がする。
ネタばれにならない程度に述べると、上巻では「装填された銃」として問答無用の処刑に手を染める青木淳子が、下巻では一人の女性としてささやかな幸せを求める青木淳子が描かれている。生まれついての念力放火能力故の諦観と、ささやかな生き方への羨望。淳子の心が揺れ動くのに同調して、読者の心も激しく揺さぶられる。
ラストについては、予想通りでもあり意外でもあった。青木淳子はかつてない悲劇のヒロインであるのに違いないし、僕自身無念な思いを噛み締めた。しかし、一方でこのような結果を招いたのは自業自得であるとも言えないだろうか。
近年続発する少年による凶悪犯罪の数々には、僕も怒りを覚える。それ相応の厳罰に処するべきだと考えている。しかし、だからと言ってそのような連中は殺してしまって構わないという思想を抱いてしまったら、その時点で凶悪犯と同レベルに成り下がったことになる。ましてや、その危険な思想を実践してしまったら、もはや救済の道はない。念力放火能力という、実践に移す力が備わっていたことは、やはり不幸と言わざるを得ないが。
色々と思うところはあるのだが、最後に一言。母は強し、である。