宮部みゆき 41


日暮らし


2005/01/05

 僕がこのサイトを開設して最初に感想を掲載したのは、宮部みゆきさんの『ぼんくら』だった。読み返してみると、事件そのものは平凡などと偉そうなことを書いているが、ところがどっこい。事件はあれで終わりではなかったのである。

 というわけで、久しぶりの時代物作品は『ぼんくら』の続編である。井筒平四郎ら主要な登場人物のみならず、物語も予想以上に前作を引き継いでいる。幸い前作は文庫化されており、未読の方は事前に読んでおいていただきたい。

 そういう自分も前作の内容をすっかり忘れていたわけだが、本作中で大まかに触れられていたため助かった。平四郎を始め、政五郎、小平次、お徳、佐吉、弓之助、おでこなどなど、物語は忘れても忘れられない愛すべき人物たちの健在ぶりが嬉しい。この人たち変わっていないねえ。それどころかさらに磨きがかかっている。

 何がって、おせっかいぶりが、お人よし加減がさ。世話好きにも程があるんじゃないかい。新しいメンバーまで揃いも揃って。そんな彼らをたしなめる平四郎が、実は一番の世話焼きだったりして。怠け者同心は伊達に年齢を重ねてはいないのだ。

 すべての原因は湊屋にある。元々続編を書く予定だったのかどうかはわからないが、何だよこの呆れるような内幕の数々は。いくらでもどろどろした話になりそうなものだが、ところがどっこい、世話好きたちのおかげでちっとも重くないじゃないか。でも、これこそ宮部流時代物の粋というもの。上下巻の長さを感じることなく読み終えていた。

 前作も本作も、ミステリー的側面はあるものの簡単に言ってしまえば「人情物」なのだろう。だが、そんなにあっさりとは言い切れないとも思う。感動を煽るような無粋な演出はない。人が人を思い遣るというごく普通の描写を積み重ねてこそ出せる、味わい深さ。高級料亭の味ではなく、家庭料理の味。石和屋の味ではなく、お徳の味。

 宮部みゆきは「進化」する、と帯には書かれている。ここまでのベストセラー作家になってしまうと、読者の求めるものは必然的に大きくなる。しかし、この希代の作家は次作でもやっぱり読者を唸らせるのだろう。



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