宮部みゆき 46


楽園


2007/08/27

 『模倣犯』から9年―前畑滋子再び事件の渦中に!

 と帯に書かれている通り、宮部みゆきさんの新刊は『模倣犯』に登場したフリーライターの前畑滋子が再登場する。『模倣犯』の刊行は6年前だが、作中ではあの連続殺人事件から9年が経過している。深く関わったが故に、立ち直れないでいる滋子。

 僕は『模倣犯』の細かい内容は忘れているが、実は前畑滋子というキャラクターもあまり印象に残っていない。親切に挟み込まれているあらすじを読むと、かなり重要な役割を担っているではないか。無理もない。あの大作はいわば事件が主役だったのだ。真犯人もまた一つの駒でしかなかった。内容を忘れてもインパクトを忘れることはない。

 滋子の前に萩谷敏子という女性が現れる。12歳で死んだ息子についての奇妙な依頼だった。敏子が示す数々の証拠の中の一点に、滋子の目は吸い寄せられる…。

 敏子の息子について調査することは、世間をはばかって暮らす一家の闇を暴くことでもある。この一家に同情はしないが、それでもここまで暴く権利があるのかと思う。それなのに次から次へと新事実を探り当てる滋子。依頼という建て前の裏に、純粋な「知りたい」欲求がなかったか。ページをめくる手は止まらないのに、滋子に情は移らない。

 再び「物語」が「現実」を超える! というのは言いすぎだろう。宮部さんの責任ではない。前例のない事件など今や存在しない。宮部さんはモデルは存在しないと述べているが、どうしても現実の事件を彷彿とさせる。現実を凌駕するには、『模倣犯』並の連続殺人事件を起こすしかない。これは現代ミステリーに共通の悩みである。

 様々な事実が一つに収束していくのは見事だし、相変わらずそつなく面白い。しかし、最近の宮部作品の「そつのなさ」にむしろ引っかかりを覚えるのは僕だけだろうか。もちろん期待しているし、要求も高い。滋子が、秋津刑事が、すべての関係者が背負ってきたように、僕も『模倣犯』を未だに引きずっているのかもしれない。

 それでも作家は、現実と戦い、代表作と戦う。人気作家が『楽園』にたどり着くことはない。そう考えると皮肉なタイトルではないか。だからこれからも読み続ける。



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