宮部みゆき 48


英雄の書


2009/02/22

 宮部みゆきさんの待望の新刊は、てっきり『ブレイブ・ストーリー』のようなファンタジー巨編なのかと思っていた。ファンタジーには違いないのだが…。

 小学5年生の森崎友理子の自慢の兄、大樹(ひろき)が同級生2人を刺す事件が起きる。1人は首を刺され死亡、もう1人も腹を刺され重症。大樹の行方は知れない。〈英雄〉に取り憑かれた兄を救うため、友理子は物語の世界へ旅立った。

 うーむ…何とも説明に困る内容である。視覚的にイメージしやすく、物語も明快だった『ブレイブ・ストーリー』と比較すると、本作の設定は極めて抽象的だ。とりあえず我々の住むこの世界は輪(サークル)≠セと思っていいのだろうか?

 無名の地≠ニは、すべての物語が生まれ、すべての物語が回収される場所だという。僕が今まで読んだ物語は、すべて無名の地≠ゥら生まれたのか? 無名の地≠ノいて英雄≠封印している守人を無名僧≠ニいう。英雄を封印?? 大体、英雄って取り憑くもんだっけ??? 友理子じゃなくても賢者の説明は難解すぎる。

 部分部分に目を向ければ、冒険的要素がないわけではない。しかし、本作の根幹となる概念の理解が怪しいために、真相を明かされても何じゃそりゃ以上の感想は持ちようがないのである。宮部作品としては異例のメタ視点を用いるなど、興味深い設定ではあるものの、上下巻に膨らませるほどの中身とは正直思えなかった。

 これじゃ友理子にとっては何の解決にもなっていない。大樹の罪が消えるわけではないし、刺し殺した同級生が生き返るわけでもない。幼い友理子にもそんなことはわかっている。それなのに、この旅の結論がそんな正論で済まされてしまうとは。体よく利用された末に友理子が得たものは…そんな資格だけ? 本人はまんざらでもなさそうだが。

 ごく普通の人が突然切れて…などという話は、現実社会にも掃いて捨てるほどある。その人は〈英雄〉に魅入られ、器≠ノされてしまったのだ。そう考えると、有識者の分析よりも納得できる気がしないでもないか? 器≠ノされないように気をつけよう。



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