宮部みゆき 50

あんじゅう

三島屋変調百物語事続

2010/08/02

 前作『おそろし 三島屋変調百物語事始』から2年。比較的記憶が鮮明なうちに届けられた続編である。前作では、おちか自身が当事者として事件に大きく関わり、あんな大変な目に遭ったのに、百物語の聞き集めは続いていた。

 今回も首を突っ込んだり世話を焼いたりはするものの、基本的におちかは聞き役に徹している印象を受ける。辛い過去を乗り越え、落ち着きを取り戻しつつあるのか。

 第一話「逃げ水」。ひょんなことから三島屋で預かることになった染松。彼には「お〇様」がついていたため、奉公先では迷惑がられていたのだ。そんな染松をおちかは諭し、話に耳を傾ける。三島屋以外ではまともに取り合ってくれないだろう。

 第二話「藪から千本」。三島屋の隣の住吉屋が店を畳むことになった。去り際に、三島屋のお民と親しい住吉屋のお路がおちかに語った事情とは。話しているうちにどんどん憎しみをむき出しにするお路。同情はするけれど、色々な意味で対応を誤った気がするが…。ある女性の凛とした姿勢が救いか。彼女はこの後、レギュラーに加わる。

 本作中最も長い、表題作の第三話「暗獣」。「あんじゅう」とはこんな字を書くのか。大変に説明しにくい内容である。曰くつきの屋敷に引っ越してきた夫婦。そこにいたのは…。心温まる交流の物語だとだけ書いておきましょう。某ジブリ作品のパクりではないよね、きっと。直太郎の事情と結びつけるのはちょっと強引か。

 個人的に本作の一押し、第四話「吼える仏」。偽坊主を自認する大男が、とある山里に滞在することになった。その恵まれた山里には、秘密の習慣があった…。偽坊主だからこそ、三島屋で語るからこそ説得力がある。いわゆる集落が日本各地で消え行く中、示唆に富んだ興味深い1編だ。最後の「変調百物語事続」は蛇足だったかなあ。

 前作のようなずしんとした読み応えはないが、全4編とも楽しんで読めた。しかし、このペースでは百物語集めるのに何年かかるのやら。なかなか本題に入らないし、かいつまんで話してくれよ。おかげで、聞き役のおちかはすっかり存在感が薄くなったような。



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