宮部みゆき 47

おそろし

三島屋変調百物語事始

2008/08/09

 時代物としては『孤宿の人』以来、怪談集としては『あやし』以来となる宮部みゆきさんの最新刊である。連作短編集の体裁をとっているが、最終的には全5編が繋がって大団円を迎える、凝りに凝った作品集である。久々の力作と言っては失礼だろうか。

 17歳のおちかは、実家である川崎宿の旅籠で起きた事件をきっかけに心を閉ざしてしまった。江戸で三島屋という店を構える叔父夫婦のもとに預けられたが、出歩くこともなく、働きながら気を紛らわす毎日。ある日、叔父の伊兵衛は通称「黒白の間」におちかを呼び、これから訪ねてくるという客の対応を任せて出かけてしまったのだが…。

 プロローグ的な意味合いもある第一話「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」。その来客、松田屋の藤吉がおちかに語った話とは。怪談というより現代的テーマに注目したい内容だ。同じ苦悩に苛まれる人々は少なくない。血を分けたからこそ苦悩は深い。

 そして伊兵衛は、おちかに人々が抱える不思議な話の聞き役を命じるのだった。第二話「凶宅」の相手、越後屋のおたかはやっかいだ。お化け屋敷の話を語った後、おたかはおちかを見透かしたように言う。おいでなさいましな。実はこれで終わりではなかった。

 第三話「邪恋」はおちかが語り手。信頼する女中のおしまに、実家での忌まわしき事件を語る。中盤で明らかにするのは理由がある。松太郎には同情するよ…。

 禁断の愛を描く第四話「魔鏡」。それが元になり、石倉屋が滅んでいく様子を赤裸々に語るお福。これまた家族崩壊が叫ばれる現代を彷彿とさせる、凄惨極まりない内容である。おちかにわざわざこんな話を聞かせるのには、やはり理由があった。

 そのまま最終話「家鳴り」になだれ込んでいく。最後の語り手は、おちかの兄である喜一。やがてあの人もこの人も再登場し、オールスターキャストでクライマックスを迎えるのに苦笑するが、読み終えてみれば宮部さんらしい安心印の作品であった。こんな両刃の剣のショック療法がよく成功したな。「百物語事始」だけに、続編に期待したい。



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