宮部みゆき 51


ばんば憑き


2011/03/20

 怪談の短編集としては『あやし』以来となるが、そもそも宮部流時代物と怪異は切っても切れない関係にある。ことさらに怪談であることを強調するのは野暮かもしれない。

 「坊主の壺」。コロリが流行する度にお救い小屋を建てる、材木問屋の主。コロリで父母兄弟を失ったおつぎも、世話になった一人だった。そのおつぎには、主人同様に「あれ」が見えてしまった…。うーむ、そんな重責を担いたくはないなあ。

 「お文の影」は、『あやし』に収録の「灰神楽」と繋がっており、政五郎親分が再登場する。回向院の茂七はまだ健在らしい。その長屋は、因縁の土地に建っていた…。政五郎はよくよくこういう話に縁があるらしい。全体的には宮部さんらしい人情物だ。

 「博打眼」。代々引き継がれてきた、究極の貧乏くじ…。化け物の姿は想像するだに恐ろしいが、その割にはほのぼのしている。それというのも、博打眼を倒すために必要なアイテムとは…。その様子を思い浮かべると何だか愉快だ。

 約100pと最も長い「討債鬼」。つける薬がない呆れた大店の主。難題を請け負った元請林藩士の利一郎は一計を案じるが…この手法は「あれ」ですね。利一郎の辛い過去など、読みどころは豊富。骸骨先生は事態を面白がっているだけのような…。

 表題作の「ばんば憑き」は、老女が語った話がメインなのだろうが、お志津の我儘ぶりがそれ以上に印象深い。入り婿で立場が弱い佐一郎も、さすがにうんざり…。

 「野槌の墓」。宮部流怪談で人間と妖(あやかし)が言葉を交わすのは珍しい。畠中恵さんのしゃばけシリーズに近い乗りだが、一太郎には難しい相手かも。一口に付喪神といっても事情は色々なのだねえ…。すべては使う人間次第。

 『あやし』と比較すると各編にボリュームもあり、長編にアレンジできそうなネタも多いのが特徴だが、純然たる怪談ではなく、根底には宮部さんらしい人情物の精神が流れている点は『あやし』と変わらない。さすがの筆の冴えと言えるだろう。



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