宮部みゆき 55 | ||
ソロモンの偽証 |
第I部 事件 |
最初にタイトルを見かけたのはまだ20世紀だったと思う。新潮ミステリー倶楽部の近刊予定に載っていた。「小説新潮」での連載期間は、2002年10月号から2011年11月号まで、実に約9年。すっかり忘れていた今、ついに単行本刊行された。
ん? 第I部だと? 三部作を3ヵ月連続刊行するという。第I部だけでも750p近いのだが…。『模倣犯』のような二段組ではないことに、やや救われる。
クリスマスの朝、雪の校庭で発見された14歳の遺体。彼は11月半ばから登校拒否になっていた。状況から自殺と判断されたが、匿名の告発状が届いたことにより、事態は一変する。告発状には、校内でも札付きの不良で知られる3人の生徒の名があった…。
警察の少年課と連携し、学校側は極秘に収拾を図ろうとする。ところが、マスコミが動き出し、事件はますます混乱していく。そして新たな犠牲者。憶測が憶測を呼び、右往左往するしかない学校側と、疑心暗鬼に陥る生徒たち。
これだけのボリュームながら、第I部は序章に過ぎないわけである。学校に関係ない第三者の介入は計算外だったとはいえ、学校側が初動対応を誤った感は否めない。現実に、学校側が知らぬ存ぜぬを貫くケースは多いだけに、さもありなんという気がする。
本作に特定の主人公はいない。全員が盤上の駒であり、誰かの掌で踊らされている。では、その「誰か」とは? 序盤で死亡した生徒の家庭事情だけでなく、登場する他の生徒の家庭も色々複雑すぎて、シリアスな内容なのに苦笑してしまう。生徒も大人も、優等生も不良も、何かしら鬱屈を抱えている。鬱屈は付け入る隙になる。
ちょっとやりすぎかと思いながら終盤に至ると、さらに…。ここまで広げて、どう決着させるつもりなのか。1人の生徒の決意を、ある大人は鼻で笑うが、実際「難しい」。だが、学校や警察に解決できるのか? マスコミなら真相に迫れるのか?
本作の時代設定は1990年頃で、現在のように携帯やネットが普及する前であることに注目したい。情報伝達の手段はまだ口コミが主である時代にあって、悪意がさらなる悪意を喚起する。それはネットを通じたデマの拡散と、本質は同じではないか。