森 博嗣 02

冷たい密室と博士たち

DOCTORS IN ISOLATED ROOM

2000/06/25

 本作は、刊行順は2番目だが、実は執筆順は最初である。良くも悪くも衝撃作には違いない前作『すべてがFになる』と比較すると、オーソドックスな本格ミステリィという趣きである。

 今回の舞台となるのは、N大学工学部内の低温研究施設である。犀川の友人、喜多の誘いで同施設を訪れた、犀川と萌絵。ところがその夜、衆人環視かつ密室状態の実験室内で、大学院生2名の死体が発見される。

 現場が低温実験室内であることが、本作のミソである。実は「衆人環視」でもなければ「密室状態」でもなく、この特殊な環境下でそのように思い込んでいただけだ。僕自身は本格的な低温実験は経験がないのだが、日常クリーンルームに入って実験しているので、本作のような状況はよくわかる。低温実験室も、クリーンルームも、ある点で共通している。その共通点とは…。

 もう少し具体的に言ってしまおう。単身で低温実験室内に乗り込んだ萌絵は、閉じ込められて危機に陥る。閉じ込められたことはともかくとして、彼女は低温実験室に入るために必要なことを怠ったのだ。まあ、このくらいにしておこう。それにしても、学内のネットワークは便利なものだ。僕はほとんど使わなかったけど。

 殺害動機については、師弟愛…ということだろうか。理系出身者としては何とも複雑な気分にさせられた。犀川&萌絵のコンビなら、違う解決法を見出しただろう。

 最後に、本編とは関係ないが、文庫版の西澤保彦さんの解説にはうんざりした。延々と自身の本格論を繰り広げ、ちっとも作品の解説になっていない。こういうのは別のところでやってほしいな。



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