森 博嗣 12

地球儀のスライス

A SLICE OF TERRESTRIAL GLOBE

2000/10/27

 「犀川&萌絵」シリーズの完結後に刊行された、短編集第二弾。今回は全編書き下ろしではないが、『まどろみ消去』と同様にバラエティに富んだラインナップである。なお、本作の本文イラストを手がけているのは、森さんの奥様である。何と多才なご夫妻であることか。

 二編収録された「犀川&萌絵」シリーズの作品が、やはり要注目だろう。「犀川&萌絵」シリーズだからではない。内容的にも知的センスが光る好編だ。

 特に「石塔の屋根飾り」がいい。建築学のような考古学のような謎に対する仮説を、お馴染みのキャラクターたちがぶつけ合う。解答も納得。「マン島の蒸気鉄道」の謎も面白い。ハワイのマウイ島で、さとうきび列車に乗ったことがあるが、こちらの方が面白そうだ。両作とも、シリーズ本編とは一味違った謎が楽しめる。

 「瀬在丸紅子」シリーズのキャラクターが登場する作品が一編収録されている。その作品「気さくなお人形、19歳」における主人公は、小鳥遊練無(たかなしねりな)。ただし、ここでの彼はシリーズ中のように飛ばしてはいない。しんみりとしたお話である。

 「小鳥の恩返し」は長編にアレンジしても良かったかもしれない。私は先生にお世話になった小鳥です、と突拍子もないことを言う彼女の真意は? その他、ホラーテイストの異色作「河童」、ちょっと切ない「僕は秋子に借りがある」、などが個人的なお薦め作だ。

 講談社ノベルスの次回作は、短編集第三弾が予定されている。予定通りならば、2001年1月に手にすることができるだろう。森さんのことだから確実だとは思うが。今度はどんな一面を見せてくれるのだろう。



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