森 博嗣 13

森博嗣のミステリィ工作室

MORI Hiroshi's Mystery Wrokshop

2002/04/22

 本作の初版は、犀川&萌絵シリーズのノベルス版が完結を迎え、短編集『地球儀のスライス』が刊行された後にメディアファクトリーから刊行された。犀川&萌絵シリーズ全作が文庫化されたのを機に、本作も講談社文庫に収められた。

 これは一概にファン向けの本とは言えないだろう。森博嗣作品のファンよりも、むしろ森博嗣という個人に興味がある人が読むべき本だ。

 第一部では「森博嗣のルーツ・ミステリィ100」と題して森ミステリィに影響を及ぼした100冊を語っており、これが全体の約半分を占める。森博嗣さんが他の作家の作品に言及するのは珍しいが、とにかく読みたい気になってくる。何しろあの森博嗣が選んだ100冊だ。新潮文庫の100冊よりよっぽど面白そうである。ここだけはお薦め。

 犀川&萌絵シリーズ全作+短編集二作について語っている第二部「いまさら自作を語る」はいわばあとがきである。森博嗣さんご本人は「あとがき」が嫌いだそうだが、なるほど、こりゃ書きたくて書いたんじゃないという雰囲気がぷんぷん漂っているな。シリーズの熱心なファンは読まない方がいいような気がする。

 第三部「森博嗣の多重な横顔」では、本業(?)である建築学科助教授や趣味について語っている。中でも同人誌に情熱を傾けていた時代の漫画はレアだろう。渋々掲載したそうだが…失礼ながら僕には価値がわからない。森博嗣さんが創作者として崇拝しているという漫画家、萩尾望都(はぎお・もと)さんとの対談は、言っちゃ悪いが自己満足だろう。ちなみに、萩尾望都さんの作品は100冊の中に選ばれている。

 森博嗣さんがあとがきを嫌う理由は、作品世界から現実に引き戻されるからだという。それを自ら実証してしまったような本だ。独特の作品世界に浸っていたいなら、ぶち壊されるのが嫌なら読んではいけない。作家が前面に出てしまうのも良し悪しである。



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