森 博嗣 20

女王の百年密室

GOD SAVE THE QUEEN

2000/07/07

 ハードカバーとしては『そして二人だけになった』に続いて2作目。ミステリィというより、SFとして読んだ方が面白い作品かな。

 時代は未来らしい。取材に出かけていたサエバ・ミチルと、ロボットらしきパートナーのロイディ。衛星ナビゲーションシステムの不調により、二人(?)は道に迷ってしまった。やがて、彼らはマイカ・ジュクと名乗る老人の導きにより、ある街に辿り着いた。

 ルナティック・シティなるその街は、外界から閉ざされ、女王デボウ・スホに統治されていた。この街の設定に、まず出鼻をくじかれる。ルナティック・シティには、「死」という概念が存在しなかった。ましてや、「殺人」などあり得ないはず…。しかし、そんな街の宮殿で、ジュラ・スホ王子が何者かに殺害される。

 ミチルの目には、明らかに殺人と認識される。首には、絞殺の痕が残っていたのだから。しかし、女王デボウ・スホら宮殿の人間たちは主張する。王子は「永い眠り」についたのだと…。例によって王子の殺害状況は密室である。トリックは某作家の某作品とそっくりだが、作品名を挙げたら一発でばれるので書かないでおこう。

 トリックはともかく、ルナティック・シティの設定は実に興味深い。ここには、貧富の差がないという。不満を持つ者などいないという。しかし、その実体は…。絵空事と片付けてしまうにはあまりにもリアルだ。まるで、某共産主義国家のようではないか。

 ラスト近くで明かされるミチルの過去と、現在のミチルの秘密は驚きに値する。これも一種の叙述トリックかな? ルナティック・シティはこの先どうなるのだろう。そしてミチルとロイディはこれからどうするのだろう。

 『スタートレック』のデータ少佐を彷彿とさせるロイディのキャラクターは、好きだな。



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