森 博嗣 26

恋恋蓮歩の演習

A Sea of Deceits

2001/05/14

 久しぶりの「瀬在丸紅子」シリーズ第6作。前作『魔剣天翔』を読んで、ようやくこのシリーズにはまってきたことを自覚したのだが、シリーズキャラクターの顔がおぼろげながら見えてきたことがその理由だと思う。特に、保呂草潤平。

 世界一周中の豪華客船ヒミコ号が、那古野港に寄港した。関根朔太画伯の自画像を盗み出す密命を帯びて乗船した男。彼に与えられた時間は、那古野から宮崎に至る一日半のみ。そんな中、男性客の消失事件が発生した…。

 本作は前作の設定をやや引き継いでいる。基本的に一冊完結の本シリーズだが、本作の結末は前作のネタばれでもあるので、本作に限ってはまず『魔剣天翔』を読んだ方がいい。森ファンなら順番に読んでいると思うが、念のため。

 前作から本作にかけて、厚いベール越しに徐々に保呂草の人物像が透けて見えてきた。シリーズ序盤での存在感の薄さは、今から思えば計算ずくだったのだろうか? いずれ完結すれば、その正体は白日の下に曝されるのか。逆に、瀬在丸紅子はなかなかしぶとい。保呂草にしろ、むしろ謎が増してもいるのだが。

 舞台となる豪華客船ヒミコ号の船上に、例によってシリーズキャラクターたちが一同に会するのはご愛嬌として、事件そのものについてはとても書きにくい。これも密室のバリエーションか。また騙されたとだけ言っておくが、今後読者の期待がますます高まると同時に、見る目が確実に厳しくなる。次作以降も読者を欺けるか?

 主人公の輪郭をはっきりさせたのが「犀川&萌絵」シリーズなら、ぼかしておいて徐々に仄めかすのが「瀬在丸紅子」シリーズだろうか。シリーズとして続ける上では、支障がない程度に情報を開示しなければならない。その辺のさじ加減を森さんが意識しているかどうかはわからないが、固定ファンを掴んでいるからこそ許される面はあるだろう。

 今後、個性的キャラクターたちはどのように育っていくのか。



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