森 博嗣 35

奥様はネットワーカ

Wife at Network

2002/07/22

 本作の初出は雑誌「ダ・ヴィンチ」である。「ダ・ヴィンチ」は時々買っていたし、連載しているのも知っていたが、単行本派の僕は読まずにいた。当初、単行本刊行は2003年の予定だったが、終盤を一気に書き下ろして単行本刊行の運びとなったようである。

 本作の大きな特徴は、6人の人物の視点で事件が語られる点だろう。複数の人物が語り部を務めるという手法自体は目新しくはないが、6人という人数は僕が知る限り最多である。さぞや複雑に入り組んでいるかといえば、大して混乱することもなくすいすい読み進められる。発散することなくまとめる手腕はさすが森博嗣だ。

 また、森博嗣ミステリィとしては珍しく、極力無駄を省いたストレートな作りであるように感じられる。6人の人物たちのそれぞれの事情といい、真犯人の動機といい、S&MシリーズやVシリーズの掴みどころのない人物たちと比較すれば至って「普通」である。

 森博嗣作品からあらゆるぜい肉を削ぎ落とすと、それはもはや森博嗣作品でない…などと偉そうなことを、僕は『君の夢 僕の思考』の感想に書いた。本作は正にそうした作品であるように僕は感じてしまった。「らしさ」がまったくないとは言わないが。

 シリーズ作品を読んでいて、冗長さについていけないと感じることが正直ある。ところが、本作のように森博嗣ミステリィとしてはオーソドックスな作品を読むと、今度は物足りないと思ってしまうのだからつくづく僕は勝手な読者だなと思う。

 そんな本作にあって森博嗣作品のアイデンティティーを示しているのは、実はコジマケン氏のイラストではないだろうか。連載中からファンの間で話題になったコジマケン氏のイラストは、不思議とマッチしているし、鳥山明に匹敵する独自の世界を構築している。

 本作は、コジマケン氏のイラストも含めて一つの作品なのだろう。コジマケン氏のイラストに価値を見出せるかどうかで、読者の評価は変わってくると思う。



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