森 博嗣 43 | ||
迷宮百年の睡魔 |
LABYRINTH IN ARM OF MORPHEUS |
『女王の百年密室』の続編である。ミチルとロイディのコンビが今回訪れたのは、一夜にして森が消え、周囲が海になってしまった伝説の島イル・サン・ジャック。この島の宮殿モン・ロゼは一切取材を拒否してきた。ところが、ミチルの取材依頼を受けるという。その裏にある意図とは果たして…。
最初に言っておきたい。前作で明らかになったミチルとロイディの秘密が、本作と密接な関わりを持っている。単独作品として読めないこともないが、やはり前作を読んでおいた方がわかりやすい。付け加えると、SF色がさらに濃いと言える。
ミチルが宮殿モン・ロゼを訪れた夜、曼陀羅の中には首を落とされた僧侶の死体が見つかった…。森博嗣さんは何だかんだでこういう設定が好きなのだろうか。それはともかく、フェアだのアンフェアだのトリックについて論じることに意味はない。
正直、例によって読み終えて釈然としなかったのは事実だ。だが、トリックがうんぬんなどと言ってしまうのは本作の作品世界をすべて否定してしまうことでもある。これはSFなんだ。そう思えば腹も立たない。いや、ジャンル分け自体に意味がないのか。
実際のところ、面白かったし魅力を感じてもいる。では、面白さの要因は何なのだろう。宮殿内での逃亡劇か。設定そのものか。少なくとも、本作に限らず僕にはわかっていないと思う。森博嗣作品の何たるかが。それでも惹き込まれる。あたかも迷宮に捕われたミチルとロイディのように。そしてまた新刊を手に取るのだ。
容易に理解させず、読者を踏み込ませないところにこそ、森博嗣作品の魅力があるのかもしれない。同時に、肌に合わない人は合わないのもわかる気がするが…。
明かされた真実を、予見的と捉えるか、反則だと思うか。読者がどう思おうと、森博嗣さんはどこ吹く風だろう。そしてミチルとロイディも。一つわかったことは、ロイディがかけがえのないミチルのパートナーだということだ。