森 雅裕 03


椿姫を見ませんか


2002/03/23

 森雅裕さんの作品に登場する人物は皮肉屋ばかりである。はっきり言って友達にはしたくない。それでいて、曲がったことが大嫌いで一本気ときているから始末に負えない。でも、それが森雅裕の魅力なのだ。

 本作は、現在三作刊行されている通称「プリマ・ドンナ尋深」シリーズの第一作である(なお、すべて絶版…)。ヒロインの鮎村尋深は某私立芸大声楽学生。相方の守泉音彦は日本画学生。実在の"椿姫"を描いたというマリー・デュプレシ像贋作事件を、二人が追う。

 デビュー作『画狂人ラプソディ』は、音楽と美術がごっちゃになっていて、悪く言えば散漫な印象を受けた。本作も音楽と美術が絡み合うが、こちらはかなりこなれている。そもそも音楽と美術は切っても切れない関係にあることを実感させられる。

 23年ぶりに浮上した、マリー・デュプレシ像贋作事件に絡んで、"椿姫"を演じるプリマ・ドンナが一人、二人と命を落とす。そして第三の"椿姫"尋深が死の舞台に上がる。血生臭い展開とは裏腹に、地位も名誉もある者たちが贋作に踊らされる様は何とも滑稽だ。愚かだ。たかが一枚の絵。そのために前途ある二人が命を落としたのだ。

 重苦しい展開の救いとなるのが尋深と音彦のコンビ。終始憎まれ口を叩き合ってばかりの二人が、露骨なくらい相思相愛なのは読んでいればわかる。死の舞台に上がる尋深を救うべく奔走する音彦。二人ともかっこよすぎるよなあ。

 例によって芸術界への悪口大会になっているが、舞台となる某私立芸大のモデルが実は森雅裕さんの母校東京芸大であるのは解説からわかる。在学当時の級友と思しき人物名を転用しまくっているし。

 オペラなんて当然僕には縁のない世界だ。読み終えて、そんな感はさらに強まった。だが、小説としての面白さは別の問題である。この面白さ、芸術は爆発だ。



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