森 雅裕 04
	サーキット・メモリー

　小道具としてしばしばバイクが登場する森雅裕作品だが、正面からモータースポーツを描いた作品となると実は多くはない。

　そのうちの一つ、『マン島物語』はレースとそれに関わる人間模様に重点を置いた、ストレートに訴える作品だった。デビュー間もない頃の作品『サーキット・メモリー』は、レースをモチーフにしているものの、ミステリー性に重点を置いた印象を受ける。

　梨羽技研のレースチームNRC所属のレーサー保柳弓彦と、人気上昇中の歌手梨羽五月香（めいか）。二人は腹違いの兄弟で、父は梨羽技研社長の梨羽善三。二人の出生について妙な噂が立ち始めた。20年前の鈴鹿での事故が絡んでいるらしいのだが…。

　腹立たしい。まったく腹立たしい。出生の秘密など弓彦と五月香の与り知らぬこと。それなのに、大人は醜く立ち回る。弓彦はサーキットで、五月香は芸能界で、それぞれの戦場で高潔に生きているのだ。格好の餌に食い付くマスコミ。しかし、二人は屈しない。

　2サイクルマシン全盛の中、唯一4サイクルマシンを駆る弓彦。いいねえ、このアウトローっぽさ全開の設定。森雅裕はこうでなくては。チームメイトにしてランキング争いのライバル板妻圭介は2サイクル。しかも、彼らの関係は実に入り組んでいるのだった。

　負傷を押して、弓彦が4サイクルマシン最後のレースに臨むクライマックスは、二輪に疎い僕でもぞくぞくと震えた。あんたたち格好よすぎるぜ。見よ、二人に流れる誇り高き血を。誰の血かなんて問題ではない。もう少しレースシーンが長くてもよかったかも。

　森雅裕さん曰く、「ロードレースという日進月歩の世界を舞台としたため、作中のレース事情は最新のものではなくなってしまい、刊行が遅れた」そうだが、現状について少しだけ補足したい。現在では、多くの日本人ライダーが世界を相手に活躍中である。二輪ファンの友人が注目度の低さを嘆いていたが、サッカーよりはるかに世界に近いのだ。

　そして、4サイクルマシンは2002年に復活を遂げている。弓彦なら、きっとやれるさ。