森 雅裕 09

マン島物語

The Isle of Man Story

2001/12/17

 英国本土とアイルランドに挟まれた、アイリッシュ海に位置するマン島。この小さな島の存在を、僕は森博嗣さんの短編「マン島の蒸気鉄道」(『地球儀のスライス』に収録)で知った。そして、この島の奥深さを森雅裕さんの手による本作で知ることとなった。

 この小さな島が二輪レースの聖地であることは、もちろん知らなかった。世界最大にして最古の公道レース、マン島T.T.(ツーリスト・トロフィ)。三度目のマン島挑戦のため乗り込んできたプライヴェートレーサー、三葉邦彦。そして、レースの撮影チームに同行していた比企真弓。二人の思いが交錯する中、雨中決戦の幕が開く…。

 公道を閉鎖して行うレースといえば、F1のモナコGPが最も有名だろう。その危険さは、整備されたサーキットの比ではない。四輪でさえも危険な公道レースを、不安定な二輪で行うとは…。しかも、マン島T.T.は実に一周約60kmものマウンテン・コースで争うのだ。

 森雅裕さんならではのへそ曲がりでとんがった人物たちが、本作でもぶつかり合いを演じてくれる。三葉の台詞は終始刺だらけ。プライドとエゴの塊。しかし、真弓を始め取り巻く人々も一歩も退いちゃいない。こうじゃなきゃこの男とは付き合えまい。

 愛車をおしゃかにした三葉が急遽乗ることになった、ドゥカティなるマシンの描写は興味深い。『画狂人ラプソディ』の主人公、そして森雅裕さんの愛車でもあったこの二輪、レースの世界ではすっかり後塵を拝している。イタリア製のじゃじゃ馬を駆ってホンダなど日本勢に喧嘩を売る心意気、実に痛快ではないか。

 日本が世界に誇るホンダを悪役に配する辺りに、森雅裕さんの野心が感じられる。アウトロー森雅裕の面目躍如と言っては失礼か。これでは三葉のくそったれ野郎を不本意ながら応援するしかない。

 挙げ切れないほど読みどころ満載の本作には、こんな臭いゴールが相応しい。BGMはシカゴの"Hard To Say I'm Sorry"に決定。手に入りにくいのが惜しいなあ。



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