森 雅裕 05 | ||
感傷戦士 |
五月香ロケーションPART1 |
現代小説界で「自衛隊もの」の雄といえば、誰もが福井晴敏を思い浮かべるだろう。しかし、福井作品をはるかに凌ぐスケールの作品が書かれていたことをご存知だろうか。
実は、「自衛隊もの」というのはこの物語のほんの一面に過ぎないのだが、それについては続編『漂泊戦士』で触れることにする。実質的に上下巻の関係にある『感傷戦士』と『漂泊戦士』は、大変ジャンル分けに困る作品である。一言で述べると、格闘系美少女ハードバイオレンスアクション巨編…か? ミステリー的側面もなくはないし。
飛騨山中にて特殊部隊の冬季訓練を指揮していた梨羽一輝が出会った、一人の少女。彼女は、台湾飛虎(フェイ・フー)族と飛騨忍軍末裔の間に生まれた子だった。少女は一輝に引き取られ、梨羽五月香(めいか)として東京で暮らすことになる。それから7年後…。
飛虎族の血を受け継ぐ五月香の運動能力は、あらゆるオリンピック記録を塗り替えるなどという表現では書き足りない。特筆すべきは、回復能力。そんな五月香を利用しようとする、自衛隊の反乱分子はもちろん卑劣だ。しかし、五月香の方も手加減なく応じる。
陰謀の背後に潜む敵との対決で流される、おびただしい血。ぶちまけられる脳漿、内臓。小説の中とはいえ、この血の量は尋常ではない。五月香にとってはあまりにも酷な展開が続くのだが、読んでいて血の臭いが漂うような描写にすっかり感覚が麻痺してしまう。この時点では、『漂泊戦士』でさらに多くの血が流れることは知らない。
やがて真の陰謀や黒幕が明かされていくが、戦闘シーンの衝撃度の方がはるかに上回る。ハードな展開にも関わらず、不思議と惹きつける力を持つ物語だ。森雅裕さんらしい皮肉屋が今回も揃っているが、戦場で皮肉など飛ばしていては命取りになるのだ。
五月香が討つべき敵はただ一人。これはまだ戦いの序章に過ぎないのだった。復讐鬼と化した五月香の運命は。以下、『漂泊戦士』へ。