森 雅裕 06

漂泊戦士

五月香ロケーションPART2

2005/11/14

 『感傷戦士』の続編である。遂に自衛隊特殊部隊によるクーデターが勃発した。五月香は、首班指名を受けるあの男を国会に襲うのだが…。

 特殊兵器の洗礼を受け、早々に捕われの身となる五月香。彼女を待っていたのは、悪魔的などという表現が生ぬるいような拷問の数々だった。いきなり『感傷戦士』を上回るハードさにげんなりするが、五月香が危機を脱する手段には唖然呆然。計り知れない飛虎族の力。しかし、何より驚くべきはこの局面で崩壊しない精神力ではないか。

 自衛隊特殊部隊に加えてCIAにKGBと、さらに多くの思惑が絡み合い、さしずめ世界の戦争屋オールスターキャストの様相を呈してくる。一つ共通しているのは、五月香はそのいずれからも興味の対象であること。飛虎族の能力に戦争屋が目を付けないわけがない。

 軍事政権下の日本で、もはや敵は民間人の犠牲など気にしていない。それでも血の轍を残しながら突き進む五月香。僕が今まで読んだ作品中、最も多くの人間を殺した主人公五月香は、殺人兵器なのだろうか。飛騨を目指す途中でのあるエピソードがなかったら、五月香を応援する気持ちが萎えてしまったかもしれない。戦士である以前に、人間であれ。

 ソ連のGRU特殊部隊との共同作戦では、作中唯一五月香が他人と認め合う。断じて心を許したわけではないが、自嘲気味に今は亡き共産主義国家での境遇を語る男に、飛虎族戦士は軍人としての矜持を感じたのか。彼もまた、誇り高き戦士だった。

 仇敵が最後に五月香に明かしたことは、果たして真実なのか。そのために流された血の量、失われた多数の命を考えると、額面通りに受け取るのは苦しい。五月香が下した結論とは…。これが森雅裕さんの言う「エンターテイメントとしてのタブー」なのだろうか。

 あまりにも多くの犠牲を生んだこの戦いに、勝者はいるのか。



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