森 雅裕 07 | ||
さよならは2Bの鉛筆 |
音楽系のフレイア学園大学附属高校に通う、鷲尾暁穂が活躍する連作短編集である。学内の地下出版物によれば、ルックスとスタイルは学内二位。専攻はピアノ。しかし、森雅裕さんが清楚なお嬢様など描くはずがない。さしずめ、音楽少女ハードボイルドか。
いつもながらの皮肉屋にして気取り屋。ここまで徹底していれば大したものである。是非、「プリマ・ドンナ尋深」シリーズの鮎村尋深と対決させてみたい。というか、思い切りキャラクターが被っている気がするが…。
「彼女はモデラート」は、内容的にはオーソドックスなミステリーである。妊娠中の級友が車ごと崖から転落して死亡した。良家のご子息ご令嬢が集う(はず…)名門フレイアの名が泣くスキャンダル。それを追うのははみ出し者の暁穂と友人朋恵。これでヒロインのアクの強さが際立たないはずがない。どいつもこいつも、ああキザキザ。
続く「郵便カブへの伝言」は凄い。不良音楽少女がフルスロットルで暴れまわる。愛車のカブを改造するわ、暴走族の少女と意気投合するわ、ちっとも音楽と関係ない。深夜の高速で憎き敵相手の大バトル。こりゃハードボイルドというより任侠物の世界である。ここまでくるとやりすぎの感あり。いくらなんでもまずいだろこれは…。
一押しは表題作「さよならは2Bの鉛筆」。大指揮者が愛用したシャープペンに込められた音楽家の矜持と、封印された過去とは。謎はもちろん、松田優作になり損ねた探偵氏と暁穂のコンビが絶妙。さらに暁穂の家庭事情が絡んでくるが、ひねくれた人格形成の理由が多少はわかるかも。この親にしてこの子ありか。あくまで素直じゃないねえ。で、どうなったんですかその後? ずるい終わり方だ。
このシリーズは本作で終わりである。プリマ・ドンナ尋深との共演などという森博嗣さんのようなサービスをしてくれとは言わないが、願わくは暁穂のその後が知りたい。でも、この余韻は結構好きだな。