森 雅裕 12


100℃クリスマス


2005/09/12

 さすが森雅裕、こんなぶっ飛んだ作品には今ではお目にかかれない。

 剣客にして声楽学生の舞門都美波(まいもんつみは)。元フランス外人部隊伍長のギャリー。フランス外務省職員のロベール。大手出版社と喧嘩した三文作家の狩野幸村。立場の違う4人が、それぞれの目的でパリからサハラへ向かう。

 日仏ハーフである都美波は、父親で自動車密輸業者のドーゼに会うためパリへやって来た。ところが、対面する前にドーゼは殺害される。容疑をかけられた作家の狩野は逃亡。都美波は、ドーゼの部下ギャリーと共にトラックを密輸するべくサハラへ飛ぶことに。そこへ、狩野に盗まれた国宝の刀を取り戻すべく、公務員のロベールが加わることに…。

 というプロローグまででも十分ぶっ飛んでいるが、読み進めるとぐいぐい引き込まれて気にならない。一言で述べればアクション活劇だが、そこは一癖も二癖もある森雅裕、読みどころは満載だ。刀な銃などのマニアックな描写もまあいいじゃないか。

 アフリカの道なき道を3台の大型トラックが行く。本物の戦場に通じたギャリー、剣術使いの都美波に対して明らかに浮いている文明崩れのロベールだが、なかなかどうして立派な(?)密輸団の一員になっていく。目の前の試練は人間を磨くのだろう。紆余曲折を経て狩野も合流するが、この人作家とは思えないほどサバイバルに精通しているなあ。

 本作の背景には西サハラの占領問題があり、ノンフィクション的な一面も持つ。アルジェリアの首都アルジェに亡命政府を置くサハラ・アラブ民主共和国。奇妙な密輸団の旅には、実は様々な政治的意図が込められていたのである。

 一行は紛争の最前線へと足を踏み入れ、クライマックスへ。血で血を洗うゲリラとの戦闘シーンが楽しいはずはないが、それでも血沸き肉踊るのはなぜだろう。都美波の義憤が胸を打つのか。名刀兼定の魔力か。血の雨がやんだ後は、不思議と清々しい。

 都美波やギャリーに負けない存在感を放つ狩野は、無頼派作家森雅裕の反骨精神の象徴だろうか。前作『歩くと星がこわれる』とはまた違った信念を感じる。



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