森 雅裕 21

推理小説常習犯

ミステリー作家への13階段+おまけ

2001/11/25

 東野圭吾さんの公式サイトに、乱歩賞授賞式のエピソードが掲載されている。それによると、同時受賞者だった森雅裕さんのスピーチはかなり過激な内容だったという。一体どんな内容だったのだ? と思っていたところ、問題作と言われている本作を運良く発見した。

 なるほど、問題作ではあるなあ。出版界の裏事情のオンパレード。本作の刊行により、森雅裕さんと大手出版社の間にかかる朽ちかけた吊り橋が、完全に崩落してしまったことは想像に難くない。件の乱歩賞授賞式のスピーチにも触れているが、ちっとも過激じゃない。言っていることは至極真っ当だ。しかし、出版界の不文律はそれを許さなかった。

 意欲に燃えて入社してきた新入社員も、一年も経てば良くも悪くも会社のカルチャーに染まっている。特に、大企業では。僕もすっかり自社のカルチャーに染まった一人であるから、このことについて批判する資格はないし、するつもりもない。こういう御時世だ、誰だってリストラの四文字に怯えている。 

 しかし、森雅裕という作家は違っていた。だから、乱歩賞受賞式のスピーチで、正直に胸の裡をぶちまけた。作家としてキャリアを積んでも、その姿勢は変わらなかった。その結果、著作はことごとく絶版に…。哀しいかな、筋を通せば角が立つこの世の中。

 暴露本という側面は確かにある。一読者として読む分にはこんな面白い本はない。だが、基本はとても真面目な本だ。自分はこうして失敗を犯した。だからこれから作家を目指す人は同じ失敗をするな。でも、俺は今さら信念を曲げないよ。本作はミステリー作家志望者へのメッセージであると同時に、作家森雅裕の美学集でもある。

 本作刊行後、親交のない作家から勇気づけられたという声が寄せられたそうである。ミステリー作家志望の方もそうでない方も、書店で本作を見つけたらレジに走るべし。

 ところで、東野さんへ。「森雅弘」「森雅裕」の誤りだ。さらに、森雅裕さんの乱歩賞受賞作は『モーツァルトは子守歌を歌わない』ではなく『モーツァルトは子守唄を歌わない』だ。管理人の連絡先が書かれていないので指摘しようがないんだけど。



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