森 雅裕 29

高砂コンビニ奮闘記

悪衣悪食を恥じず

2010/01/27

 商業出版された森雅裕作品は、エッセイ集『鐵のある風景』を除き、すべて所有している。しかし、そのうち新刊書店で見つけたのはわずか。ほとんどは古書店やネットオークションで入手した。僕がそれらの感想を掲載したところで、森雅裕さんの懐具合には一切貢献しない。ところが、2009年も残り少なくなったある日のこと。

 2010年1月、約10年ぶりに森雅裕さんの本が商業出版されるという。失礼ながら聞いたことがない出版社。小説ではなく、某コンビニチェーンでアルバイトをしていたときの体験記だという。過去形なのは勤務先の店舗が閉店したからである。仕事を失うのと引き換えに、本作は刊行され、読者が手に取ることができた。何とも複雑な気分だ…。

 その店舗が修羅場だった。業績も悪いが何より客筋が悪い。理不尽な苦情や恫喝は日常茶飯事。本当かよと思うような自称「客」の横暴の数々。あくまでお客様は神様な本部の姿勢。世間の酸いも甘いも知り尽くした森雅裕さんが、いかにそうした連中をやり過ごしてきたかが涙ぐましい。現役のコンビニ店員の参考になるかはわからないが…。

 客には知る由もないコンビニ店員の苦労。レジの対応がちょっともたついた程度でいらついたことは、誰にでもあるだろう。商品を売るだけでなく、公共料金の収納代行、宅配便、チケット発券、ファーストフードの調理と、サービスが拡大するだけ仕事も増える。深夜バイトが暇だなんてとんでもない。多少の無愛想には目を瞑ろうではないか。

 そしてお約束の人間関係。店長はともかく、バイト仲間たちとは比較的良好な関係を築いたらしい。強烈な毒はない。登場する多くの関係者のほとんどに対しては、素直な感謝の気持ちが綴られている。基本的に面白おかしく、読み物として純粋に興味深い本だ。

 しかし、最後の章になると森雅裕さんの孤独や窮状が赤裸々に語られ、急に湿っぽくなる。出版界への、世間へのルサンチマンに溢れ、ひたすら哀しい。『化粧槍とんぼ切り』の感想に、集英社との関係は比較的良好なのかと書いたが、とんだ勘違いだった。

 本作の初版が何部なのか、何部売れるのかわからない。森雅裕さんの本が次に商業出版されるのはいつか。出たら買います。僕にはそれしかできない。



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