中町 信 46


三幕の殺意


2013/05/26

 中町信さんの7年ぶりの新刊となった本作は、同時に遺作となってしまった。

 あとがきによると、本作は昭和43年に双葉社の「推理ストーリー」誌に掲載された中編「湖畔に死す」を、大幅に加筆・改稿して長編化したものである。当時、東京創元社の戸川安宣氏から、直々に長編化を依頼されたという。

 中町さんは長編化に積極的ではなかったという。失礼ながら、中町さんご自身が言う通り、出来が良いとは言い難い。デビュー作『新人賞殺人事件』から文章の拙さは変わっていない。ある意味驚異的な、化石のような作品と言える。

 内容はオーソドックスな「雪の山荘」ものにして、アリバイ崩しもの。観光シーズンが終わった冬の尾瀬に、わざわざ集う面々。ここに定住する日田原聖太という人物に、何らかの怨みを抱く者ばかり。案の定、日田原は離れで死体となって発見され…。

 容疑者候補はこんなに必要だったのか。視点が変わる度に、日田原との関係は何だったっけと考え込む。デビュー作のような策を弄していないのは潔いとも言えるが、今時あまりにもベタな設定で、この程度の真相かという感が強い。

 事件そのものより、最後の3行に込められた皮肉が本作の読みどころと思われる。この結末さえも日田原の罠なのか。大体、真犯人はまんまと逃げ切れたとして、今後どうするつもりだったのか。短絡的犯行に呆れるが、動機の面は評価に値する。

 現在のリバイバルブームの立役者は戸川氏に違いない。本作を含め4作品が創元推理文庫に収録されている。坂木司さんを見出すなど、名物編集者にして名伯楽としても知られた戸川氏が、中町信という作家にこれほどまでに惚れ込んだ理由は何か。

 中町信作品に資料的価値以上の価値を見出せなかった僕が、それを知る機会はないだろう。しかし、これだけは言える。書き続けたからこそデビューを果たし、戸川氏の目に留まった。僕に中町さんの努力と情熱を笑う資格はない。



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