西澤保彦 45 | ||
腕貫探偵、残業中 |
奇妙な読後感が持ち味の『腕貫探偵』の続編である。本作も基本フォーマットは踏襲しているが…今回、腕貫探偵が相談を受ける場所は、市民サーヴィス課臨時出張所ではない。プライベートな時間に相談を受けるから、「残業中」なのである。
「体験の後」。レストランが強盗に襲撃され、居合わせた全員が拘束される。しかし、その中に腕貫探偵がいた…。1編目から度肝を抜く…というか呆気にとられる。「雪のなかの、ひとりとふたり」。1枚の写真が、ある事件に疑念を抱かせる。警察とも昵懇の仲らしい腕貫探偵も凄いが、プライベートの彼を一発で探し出した彼女の方が凄い。
「夢の通い路」。櫃洗に住んでいた頃の見覚えがない写真。たまたま仕事で櫃洗に行き、たまたま腕貫探偵を見かけたのはよかったのかどうか…。「青い空が落ちる」。長く教員を務めた女性の遺品を整理していると、5千万円が引き出されていた。腕貫探偵が浮かび上がらせたのは、人格者として知られた彼女の意外な顔だった…。
「流血ロミオ」。タイトルだけでは意味不明だが、読めば納得するだろう。本家『ロミオとジュリエット』は悲劇の中にも救いがあったが、腕貫探偵が語った本件の真相は単に救いがない…。「人生、いろいろ。」。あれ、腕貫探偵自身は登場しない??? この罪は割に合わないほど重いそうです。彼としては勉強になっただろうが…。
前作を読んで、微妙さが蒼井上鷹作品に似ていると感じたが、本作も同じ。というより、自説に確信を深めた。蒼井上鷹作品そのもののようにさえ思えてくる。解説の関口苑生氏も、基本的に僕と同じことを感じているのではないか。
関口氏は、西澤保彦さんがそれぞれの登場人物の物語を丁寧に紡いでいると指摘している。確かに、短編にするには贅沢なくらいである。しかし、逆に言えば凝らなくてもいいところに凝っているということでもあり、ポイントがぼやけ気味である点も否めない。今回、腕貫探偵が謎解きをする場所は飲食店の中なのだが、グルメ描写は必要なのか?
それでも、不思議と愛おしい。読めば読むほどじわじわくるとでも言おうか。