乃南アサ 29


花盗人


2000/11/27

 本作は、書き下ろしではないものの、文庫版オリジナルとしてまとめられた短編集である。全10編、よくもまあ、嫌な読後感が残る作品ばかりを揃えたものだ。この密度の濃さは、同じくらいの厚さの『トゥインクルボーイ―子供たちの7つの憂うつ』をはるかに凌ぐかも。

 10pにも満たない冒頭の「薬缶」と、最後を飾る表題作「花盗人」。これらの作品の配置には、強い意図を感じる。どちらも、「めし・ふろ・ねる」を実践しているぐうたら亭主が登場する。こりゃ、某先生が聞いたら烈火のごとく怒りそうである。男性の僕としては、反面教師にしたいと思いつつ苦笑するしかない…。

 「寝言」―これだけはいまいちかな。
 「愛情弁当」―嫌だよこんな弁当ー! 我が社の食堂の方がずっとましだ…。
 「今夜も笑ってる」―色々な解釈が可能だが、僕はノーコメント。
 「他人の背広」―そのまんまです。よく確認しましょうね…。
 「留守番電話」―是非、「世にも奇妙な物語」で映像化してほしい。
 「脱出」って…そういうことなのね。一本取られました。

 「向日葵」だけは、本作の中ではやや異彩を放っている。それぞれに深刻な悩みを抱えた男女。一種のラブストーリーと解釈できないこともないが…。

 本作中で最も長い「最後の花束」は、力作だ。純白のウェディングドレスを身にまとうことを夢見た結果が、これか…。女性ならではの感性を、ここまでバッドテイストに仕上げてしまう作品はなかなかあるまい。

 乃南さんが短編の書き手として超一流であることを証明する、傑作作品集だ。ブラックコーヒーのお供に、是非どうぞ(嘘)。あなたは本当にお人が悪い…。



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