乃南アサ 40





2001/01/08

 『凍える牙』で活躍した、音道貴子巡査が長編に再登場である。今回は、趣向を変えて音道巡査が孤立無援の危機に陥る。あまりの厚さと予想される内容の重さに後回しにしてきたのだが、この年末年始にようやく読んだ。

 結論から言ってしまうと…評価が辛くならざるを得ないな、これは。

 東京の郊外住宅地で発生した、大量殺人事件。再び本部捜査に駆り出された貴子。今回は星野というキャリア組の警部補とコンビを組むことになるが…。

 この星野という男が実に嫌な奴である。「きっかけはあの馬鹿男だった」と、帯にまで書かれているくらいだ。序盤は星野がいかに馬鹿男かを描写することに費やされる。もちろん事件の伏線は張られているのだが、星野の描写ばかりが目に付いてしまう。こんなにページを割く必要があるのか?

 何よりも気になるのが、貴子が罠にかけられるシーン。おいおい、あまりにも呆気なさすぎるぞ! もちろんここには書けないが、実際に読んだら開いた口がふさがらないだろう。これでは星野だけではなく、貴子自身も何らかの処分は免れまい。あの状況では無理もないかもしれないが、星野への恨み辛みが貴子の精神を維持させたというのも寂しい限り。とは言え、ハラハラしながら読んだけどね。

 『凍える牙』で貴子と迷コンビを組んだ滝沢が、今回は貴子を救うべく奔走するのが注目される。滝沢の焦りが手に取るようにわかる。中盤から終盤にかけての展開は、滝沢ならずともとにかくじれったい。あーもう、すぐそこまで迫っているのに、と読みながら何度思ったことか。実際にこんな事件が起きたら、警察としてはこのような対応をせざるを得ないんだろうけど。

 あんな目に遭いながらも、貴子はお人好しである。でも、そこが貴子のいいところなんだろう。貴子の再登場がもしあるのなら、次に期待しよう。それにしても星野は懲りていない。チャンチャン。



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