乃南アサ 43 | ||
未練 |
音道貴子刑事が活躍するシリーズ第4弾は、ずしりと重い作品に仕上がっている。読み応え十分だが、気分が沈んでいるときに読むのはお勧めできない。
表題作「未練」は、貴子の「未練」でもあり、自分勝手なある男の「未練」でもある。この後、本作中では軽いジャブにすぎなかったことを僕は思い知ることになる。
「立川古物商殺人事件」は…おい、これで終わりかよ! と読み終えた時点では思ったのだが、実はこれで終わりではなかった。詳しく書いてはいけないな。事件そのものは実に嫌〜な話である…。
「山背吹く」は、初出が「小説新潮」1997年7月号となっているが、どうやら『鎖』の事件の後日談らしい。初出の時点で『鎖』の構想ができていたのだろうか。さすがに心身に大きなダメージを負った貴子が、自分がどうしようもなく刑事であることを気付かされる。何はともあれ、貴子は立ち直ったようだ。
「聖夜まで」は、貴子にとっても読者にとっても本作中最も重苦しい物語だ。人はなぜかくも残酷になれるのか? こうなる前に、手を差し伸べることはできなかったのか? 人々が浮き立つ季節と、結末のこの落差。長編ではないことと、ラストシーンがほんの少しだけ救いかな。続く作品のタイトルが「よいお年を」とは、皮肉ではないか。
ラストを飾る「殺人者」。主人公は、「立川古物商殺人事件」で貴子とコンビを組んでいた刑事だ。多くは語るまい。彼もまた、どうしようもなく刑事なのだ。
人間の負の部分と対峙するのは、警察官という職業の宿命である。相変わらず警察の不祥事は後を絶たないが、大多数の警察官は世間の目に耐えて日夜努力しているのだ。僕には決して務まらないだろうし、やはり敬意を払いたい。本作は、そんな気にさせられる重厚な一作だ。貴子は今日も走る。