貫井徳郎 03


失踪症候群


2000/05/14

 本作は、版元が双葉文庫であるため入手するのにずいぶんと手間がかかった。大型書店に行っても数えるほどしか置いていない。置いている書店はまだましな方である。結局オンラインで注文したのだが、その甲斐は十分にあった。

 現代人は誰しも、組織のしがらみの中で生きている。それは会社かもしれないし、家族かもしれない。時には、すべてを投げ出して逃れたい衝動に駆られる。その衝動に流された後に、待ち受けているのは果たして自由か、それとも…。

 本作は、ある特別調査チームが、続発する若者たちの失踪事件を追う物語だ。リストアップされた失踪者たちの痕跡を追う、四人の男たち。彼らは住民票を転々とさせていた。やがて浮かび上がる、ある失踪者の背後に隠された真相とは?

 事件の背後にちらつく、淡々と暴行を加える凶暴な若者たちと、イリーガルドラッグ。調査チームのメンバーである元刑事と、娘との確執。またしても人間の深い闇に迫る重苦しい展開である。しかし一方で、僕は本作には力強いメッセージが込められていると思っている。

 組織のしがらみから逃れたところで、ある個人として生きていかねばならないことに変わりはない。調査チームのリーダーである環(たまき)の言葉に、本作のテーマが集約されているのではないだろうか。

「…親からは逃げられても、自分の人生から逃げることはできませんからね

 そう、僕も、そしてあなたも、生ある限り自分の人生からは逃げられない。

 本作を読んで北海道へ行こうと思った方は、まさか…いないだろうな。なお、同じ特別調査チームが活躍する続編『誘拐症候群』も刊行されている。



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