貫井徳郎 07


誘拐症候群


2001/05/24

 警視庁人事二課の環敬吾が率いる、特殊工作チームが活躍する第二弾。

 環に率いられるメンバーは、私立探偵の原田、托鉢僧の武藤、肉体労働者の倉持という顔ぶれだが、前作『失踪症候群』では原田の家庭事情が事件に深く関わっていた。今回は武藤がクローズアップされる。

 新宿駅西口地下で托鉢をしている武藤は、ティッシュ配りをしている高梨と偶然に知り合う。二人が浅からぬ間柄となったある日、生まれたばかりの高梨の子供が誘拐された。身代金は一億円。高梨の父親は、日本有数の電機メーカの社長だった。

 一方で、武藤以外のメンバーは別の誘拐事件を追っていた。ネット上で臆面もなく「ジーニアス」と名乗る首謀者。ネットを利用した犯罪というネタ自体は現在では目新しくなくなってしまったが、自らもウェブサイトを公開しているだけあってリアリティは抜群だ。ネット社会の匿名性、危険性を今さらながら再考させられる。

 直接の接点はない二つの事件から、常に俯瞰する立場にある環という人物の恐ろしさがまざまざと浮かび上がる。武藤の心中など彼の知ったことではない。環に憎悪すら覚えつつ、武藤は理解しているのだろう。環に異論を唱えることの無意味さを。反面、今回のやり方はスマートさに欠けていてちょっと環らしくないような…。

 人を人とも思わぬ高梨の父親は、到底社長の器とは思いがたい。いかにも小説的にデフォルメされている点はやりすぎという気もするが、現実にこうした思想は未だにはびこっているのだろう。結末に至ると、その人間性はさらに地に落ちる。

 続編『殺人症候群』の刊行が待たれる。環の人物像が相変わらずぼかされたままだとすれば、次に物語の中心となるのは倉持か? それにしても、「現代の必殺仕置人が鮮やかに悪を葬る!」という裏表紙の文句はどうにかならんのか。



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