貫井徳郎 30 | ||
ドミノ倒し |
この軽妙な文体。こういう路線は『悪党たちは千里を走る』以来か。しかし、終始ユーモラスながら、大きな企みが込められていたのだ。
のどかな田舎町、月影市で探偵事務所を営む十村のもとに、調査依頼が舞い込んだ。依頼人は、元恋人の妹。何だか奇妙な依頼だが、断る理由はない。探偵らしい仕事を得て張り切る十村。早速、発生したばかりの殺人事件について調べ始めるが…。
『ドミノ倒し』というタイトル通り、1つの事件について調べているうちに別の事件がほじくり返され…という構成が読みどころ。十村には月影署の署長という強力なパートナーがいた。キャリアである彼は、お飾りとして署内ではなめられた存在だった。互いに情報交換するが、民間人にせっせと情報を流す署長を突っ込んではならない。
当然ながら、狭い田舎町を嗅ぎ回ると目立つ。殺人事件はまだ未解決だけに、案の定、月影署の刑事に目をつけられる。うろちょろするなと凄まれ、その場はやり過ごすが、もちろん打ち切る気はない。無謀というか、見上げた探偵魂というか…。
署長の情報は、調査を助けるどころかむしろ事態を発散させる。そもそもの依頼からどんどん逸れていき、そりゃお金を出している依頼人は怒りたくもなる。全容解明が必要だと説き伏せる十村だったが、その全容がさっぱり見えてこない。
奇妙な依頼に始まり、何となーく違和感は感じていたが、ドミノ倒しの行き着く先に確信はなかった。終盤に至り、ようやく十村が掴んだ事実。しかし、真相は十村の想像をはるかに超えていたのだった。おいおいおいおい……。読み終えてようやく、署長の気持ちがわかる。彼は早い段階で見抜いていたのだろう。
十村を襲った絶望感とは裏腹に、おかしさが込み上げてきた。やられたというより、吹き出したくなった。正直、こういう前例はあるだろう。それでも許せる一因は、やはりユーモラスさにある。そういう点でも計算し尽された作品と言える。