沼田まほかる 01


九月が永遠に続けば


2012/02/11

 第5回ホラーサスペンス大賞を受賞した、沼田まほかるさんのデビュー作である。ちなみに、この回の特別賞は道尾秀介さんの『背の目』であった。ホラーサスペンス大賞はわずか6回で終了したが、五十嵐貴久さんや誉田哲也さんを輩出している。

 主人公の佐和子は、高校3年生の息子、文彦と2人暮らし。ある日、元夫の雄一郎から、娘の冬子が自動車学校の教官と付き合っているらしいと聞かされた。後日、その自動車学校に通っていた佐和子を担当したのは、偶然にも冬子の相手である犀田だった。

 佐和子と犀田はあっという間に肉体関係になる。佐和子も犀田も独身だから不倫ではないし、別にやましいことはないかもしれないが、冬子の相手に抱かれているという背徳的快楽はなかったか。佐和子が雄一郎と別れた事情が事情だけに…。

 そして怒涛の不幸が訪れる。息子の文彦が突如失踪。さらに、犀田の事故死。必死に文彦を探し回る一方、事故への関与を疑う佐和子。文彦の同級生ナズナの父、服部が何かと面倒を見てくれるが、いかにも佐和子目当てという感じがする。

 警察に捜索願いは出した。文彦の友人、ナズナ、担任教師、雄一郎、冬子…あらゆる関係者に当たったが、文彦の行方は掴めない。一方で、文彦を含む佐和子の周囲の人間たちの、別の顔が見えてくる。知りたくない情報ばかりが読者にもどんどん入る。

 簡単に言ってしまえば、ドロドロした話のオンパレード。中でも、雄一郎の現在の妻、亜沙実を襲った不幸は凄まじい。元々、亜沙実は精神科医である雄一郎の患者だった。しかし、服部にそこまで話す必要があるのか、佐和子さん? 夫を奪った相手への当てつけなのか、何だか佐和子の口調が嬉々として感じられるのは気のせいだろうか。

 終盤に近づくとさらに追い討ちをかける事件が…。文彦の真意や、犀田の事故死の真相が明らかになっても、誰も救われないし、誰にも共感できない。筆力は認めよう。56歳という異例の遅咲きデビューだからこそ、このねっとり感が出せたのだ。

 何だか中途半端な終わり方が、さらなる波乱を予感させる。



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