荻原 浩 01


オロロ畑でつかまえて


2003/03/02

 かの有名なサリンジャー作の小説をもじったに違いないタイトル。第10回小説すばる新人賞を受賞した、荻原浩さんのデビュー作である。

 人口わずか三百人。超過疎化にあえぐ日本の秘境大牛郡牛穴村が村おこしに立ち上がる。ところが、組んだ相手は倒産寸前の弱小プロダクション、ユニバーサル広告社だった。最弱タッグによる村おこし作戦とは…。

 荻原浩さんは、広告製作会社勤務を経てコピーライターとして独立という経歴を持つ。文庫版解説でも触れているが、業界人らしい趣向が随所に目に付く。例えば、各章のタイトルが「1.クライアント」というように業界用語になっているのだが、添えられた説明文が笑える。広告業界に限らず、企業人なら思い当たるところ大ではなかろうか。

 さて、肝心の村おこし作戦だがこれが実に馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しいけど、笑い流して余りある読みどころが満載だ。

 今時こんな連中がいるんかいというくらい世間ずれした、牛穴村青年会の面々。彼らは皆純朴で、真剣だ。ユーモラスな文体は決して彼らを茶化していない。むしろ村への愛着を際立たせる。故郷を出て都市部に暮らす人間たちは、便利さと引き換えに何かを失っている。この僕も。作中のある女性の決断に拍手。

 ユニバーサル広告社の面々では、杉山が最注目。今回の作戦で大役(?)を担う彼は、大手の広告業者から転職し、離婚を経験している。母親に引き取られた娘との関係に悩む彼。解説によれば、父娘の物語には続きがあるとのこと。

 東野圭吾さんの『毒笑小説』の巻末対談で、東野・京極両氏は「笑いの根底に悪意あり」という認識で一致していた。本作はユーモア小説として紹介されているが、笑いを誘うには正直ほのぼのしすぎである。でも、それが本作のいいところ。

 牛穴村特産のオロロ豆を、是非食べてみたいものだ。



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