荻原 浩 02


なかよし小鳩組


2003/04/20

 第10回小説すばる新人賞受賞作『オロロ畑でつかまえて』の続編である。ただし、牛穴村の面々は登場しない。再登場するのは、どちらかというと影が薄かったユニバーサル広告社の面々だ。特に杉山にスポットを当てている。

 何ともほんわかとしたタイトルだが、実は小鳩組とは暴力団。社長の石井はよりによってヤクザのイメージアップ戦略というとんでもない仕事を受けてしまった…。

 前作は杉山の父娘関係を示唆しつつ終わったが、今回はクライアントがヤクザという状況の中で親子模様が物語の中核をなす。大手の広告社に勤務していた頃には、典型的な家庭を顧みない父親だった杉山。そんな杉山が、別れた妻の再婚後にかいがいしい父親を演じる姿が切なくもあり滑稽でもある。

 …のだが、全体を通して見ると色々なエピソードがごっちゃになっている印象を受ける。デビュー作に続く第二作ということもあり、肩に力が入りすぎたのだろうか。読みどころは豊富。だが豊富すぎた。いい作品だけに、その点が惜しまれる。

 例えば、別れた妻のある事情。これは必要不可欠な演出だったのか。例えば、仕事を通じて知り合った小鳩組の若者。彼の処遇はこうするしかなかったのか。杉山の心の叫びは、僕の心の叫びでもあった。それを狙っていたのなら成功と言えなくもないが。

 …いかん、文句はこのくらいにしておくとして、ヤクザのイメージアップというあらゆるメディアが断る仕事に対して杉山が出した答えとは。このウルトラCは必見だ。それはそのままラストへと繋がっていく。見ているか娘よ。本作が全体的には父娘の物語であることを、ラストシーンが如実に示しているではないか。

 その後が気になるところだが、父娘の物語の続きは読者各自が想像するしかない。杉山に、別れた妻に娘に、ユニバーサル広告社に幸多からんことを祈るのみ。



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