荻原 浩 04





2004/11/11

 今ごろになって荻原浩作品の面白さに気付いた僕だが、荻原さんの作風はユーモラスだとか軽妙だとか笑って泣かせるだとか紹介されていることが多い。実際その通りだし、僕自身感想にそのように書いている。

 ところが、本作『噂』ではこうした特徴がすっかり影を潜めている。硬質なタッチに貫かれたミステリー。ユーモアだけじゃない、荻原さんはこういう作品も書けるんだ。

 女の子をさらって足首を切り落とす、ニューヨークのレイプ魔が渋谷に出没。でもミリエルをつけている子は狙われない。無名のブランドから発売される香水の販売戦略で流した都市伝説。しかし、ついに女子高校生が足首を切り落とされた…。

 都市伝説というと真っ先に「口裂け女」を思い出す。当時は真剣に怖がったものだ。だが、それは子供だったからであって、こんな安直な手段がネット世代の高校生に通用するものなのか? ネット世代だからこそ有効なのか? うーむ…。

 お約束通り連続殺人に発展していくなど、内容的にはオーソドックスなミステリーである。捜査の手が「噂」の発信元に及ぶ過程にぐいぐい惹き込まれていくが、むしろ荻原さんが描き出す人物像が興味深い。「噂」の首謀者である女性社長の自信という仮面の裏に隠された、歪んだ素顔。同じ事情を抱えた二人の刑事。そして真犯人。途中から薄々感付いていたが…やっぱりそうだったし。これで終わりだなんて。

 というのは実は早とちり。本当のサプライズは最後の最後に用意されていた。ここまで結末にしてやられた作品は久しぶりだ。初版刊行時になぜ話題にならなかったのか。あっ、この年は宮部みゆきさんの『模倣犯』がすべての話題をさらったんだった…。

 本作は現在絶版扱いらしい。講談社は直ちに文庫化すべきだろう。



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