荻原 浩 08


神様からひと言


2005/02/16

 後に『メリーゴーランド』で地方公務員遠野の奮闘ぶりを描く荻原浩さんが、本作では「民間」企業の若き社員の奮闘ぶりを描いていた。

 設定だけを比較すると両作品は共通点が多い。小規模な地方自治体と中堅企業。意に沿わない異動。それでも辞められない。家族のためか。生活のためか。一方で、大きな違いの一つとして主人公の人物像が挙げられる。

 よく言えば温厚な遠野に対し、頭に血が上りやすい本作の主人公佐倉凉平。彼が会議中に堪え切れず暴言を吐くところから、物語は始まる。総務部お客様相談室への異動を命じられる凉平。そんな彼に強い共感を抱いたのは、僕自身が似たような失敗を繰り返してきたからだ。この歳になるまで、何度も何度も。ちっとも自慢にゃならないが。

 凉平が勤務する珠川食品の有様がこりゃすごい。『メリーゴーランド』どころではない誇張ぶりだが、サラリーマンならすべてを笑い流せないに違いない。お客様相談室の有様は一段とすごい。だが、その実態はリストラ候補者の拘置所なのだ。

 生活のために我慢していたはずの凉平。上司の篠崎と行動を共にするうちに、クレーム対応も板につき、すっかり場末の職場に馴染んでいく。牙を折られた凉平。責められるわけがない。適応能力がなきゃ会社で生きていけないんだ。

 ところが、日々のクレームから会社の呆れた実態が明らかに。湿ってしまった凉平の導火線に火をつけたのは、「彼」か「彼女」か? 凉平自身の意地か? もう我慢は必要ない。

 進むべき道を見つけた凉平が、会社に辞表を突きつけるクライマックスは愉快痛快。現実にここまでやれる人はまずいないだろう。守るべきものがあるならなおさらだ。でも恥じることはない。これは凉平の生き方。会社にしがみつくのも一つの生き方。

 大きな違いがもう一つ。臭いぞこの結末。でも荻原作品だから許す。どんな結末かは読んで確かめてほしいところだが、店頭で見つけるのはちょっと大変かな。



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