荻原 浩 19


さよなら、そしてこんにちは


2008/04/26

 昨年刊行された短編集である。再読する気になったのは、最新刊『愛しの座敷わらし』とよく似た設定の作品が収録されていたのを思い出したからである。

 表題作「さよなら、そしてこんにちは」は、葬儀社の社員が主人公という珍しい設定。日々直面する死と、我が子の誕生。感情を表に出してはならない仕事とは。

 「ビューティフルライフ」の初出は、『愛しの座敷わらし』の連載開始より前。会社をリストラされた父が農業(本人曰くファーマー)を志し、一家で田舎に移住する。家族構成も性格も似ていて苦笑する。しかし、憧れだけで田舎暮らしを決意したわけではない。

 記憶に新しい「あるある大辞典」問題を彷彿とさせる「スーパーマンの憂鬱」。もちろん捏造は悪いが、あれだけの視聴者が踊らされたことに驚くと同時に呆れた。しかし、もっと踊らされる人たちがいる。すがりたい気持ちはわからなくもない…。

 「美獣戦隊ナイトレンジャー」というのは架空の作品名だが、実際の仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊シリーズで、子供より熱心な大人のファンが存在することはよく聞く。演じるのはイケメンがお約束。夢は夢のままにしておきなさいってか。

 記憶に新しいミシュラン騒動を彷彿とさせる「寿し辰のいちばん長い日」。今どき珍しい頑固親父の店だが、実は取材歓迎。そんな寿し辰に星がつく日は来るのか。

 田舎で農業をするのも楽じゃないけど、東京で「スローライフ」を実践するのも楽じゃないという皮肉。これじゃ本末転倒だってば。「長福寺のメリークリスマス」に垣間見える、日本人の節操のなさ。でも、年に一度くらい大目に見てあげてもいいんじゃない。

 いつもながらの軽妙な文章ですいすい読めるので、一度読んだだけでは印象が薄いかもしれない。できれば二度読んでほしい。世情を鋭く切り取りつつ、あくまで普通の人々の生き様にスポットを当てる。だから共感できる。荻原浩の至芸、ここにあり。



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