荻原 浩 22


オイアウエ漂流記


2009/08/25

 何のひねりもない話だ。

 リゾート開発会社に勤務する塚本賢治。健治をこき使う上司の菅原主任、安田課長、河原部長。スポンサー企業の御曹司、野々村。何やら距離感が微妙な昌人と早織のカップル。小学生の仁太とそのじっちゃん。謎の白人サイモン。10人が乗り合わせた飛行機が遭難する。機長を除く10人と犬1匹が流れ付いたのは、ポリネシアの孤島だった…。

 と、設定だけなら十分ひねっている。非常用の食料と飲料水はあっという間に底をつく。飢えと渇きが肉体のみならず精神も蝕む。血で血を洗うサバイバル戦に突入…なんてことはまったくないのでご安心あれ。争っていても仕方ない。力を合わせなければ。

 簡単に言ってしまうと、無人島での暮らしを通じた10人と1匹の交流記である。序盤こそ険悪になるものの、徐々に無人島の環境に適応していく。小さな衝突はあるものの、物語の大部分ではゆったりと日々が流れていく。カレンダーなど意味がない。

 賢治と早織で視点が交互に変わりながら、10人の個性が際立っていく。一見頼りなさそうな昌人が、実はアウトドア派で大活躍。ガダルカナルにいたという仁太のじっちゃん直伝のサバイバル術。そんなじっちゃんを気遣う仁太。意外に適応力があり憎めない野々村。サイモンの正体とは。パワハラ部長と異名をとる河原が、生きる厳しさを突き付ける。肩書の呪縛から解き放たれた肉体派の安田。揺れ動く早織の心。そして賢治は…。

 どこかで似たような感想を読んだと思ったあなた。そう、これは『愛しの座敷わらし』と同じ手法なのだ。すなわち、日常の積み重ね。田舎に無人島と、舞台も似ていると言えなくもない。こういう手法で最後まで読ませるのは、簡単なようで実は難しい。

 第139回直木賞における『愛しの座敷わらし』の選評は、冗長、物足りない、平凡といった常套句で片付けられていた。本作が直木賞候補に入ったら、同じような評価を受けるに違いない。苛酷であると同時に愛しい日常が、選考委員諸氏には平凡な日常にしか映らなくても、僕は荻原浩を断固応援し続ける。



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