荻原 浩 27


幸せになる百通りの方法


2012/02/16

 荻原浩さんの新刊は再び短編集である。『月の上の観覧車』同様に、単なる寄せ集めではない一貫したテーマを感じる。幸せってなんだろう。

 「原発がともす灯の下で」。初出時期は昨年夏、政府と東電が節電を呼びかけていた時期である。息子夫婦と同居する絹子は回想する。現代人は便利に慣れすぎた。絹子は家族に何を語ったのだろう。 「俺だよ、俺。」。元々は役者志望だが、現在は振り込め詐欺グループに属する慎之助。成果が上がらず、とうとう禁断の関西圏に手を出してしまう。やっぱり手強かったねえ。笑い事じゃないけどつい苦笑してしまう。

 「今日もみんなつながっている。」。ブログだのmixiだのtwitterだのfacebookだの、何かと繋がりを求める現代人。皮肉っている面もあるのだろうが、登場人物のリンクの妙が面白いし、どこか憎めない。「出逢いのジャングル」。婚活イベントで訪れた動物園。大学で動物行動学を専攻した陶子は、寄ってくる男たちを動物にたとえてしまう。陶子が語る現実は、世間一般の動物へのイメージをぶちこわすだろう。人だって所詮は動物さ。

 「ベンチマン」。会社を解雇されたことを、いつまでも家族に言い出せない夫。中年の坂を上り始めた僕にも他人事ではない。いつも時間を潰すベンチで生まれた、奇妙な交流。勤め人なら身につまされる1編。絶望だけではないことは付け加えておこう。「歴史がいっぱい」。昨今は戦国萌えな女性が多いと聞くが、昔から愛読書に司馬遼太郎を挙げる経営者や、龍馬を自称する人は多い。で、歴史ネタで引っ張った末に何だよこのオチは。

 表題作「幸せになる百通りの方法」。自分の周りにはいないが、自己啓発書を読み漁り、必死に実践する人がいるらしい。が、それで成功した人というのも聞いたことがない。最初は茶化しているのかと思ったが、最後はあらあらら。何だか騙された気分。

 表題作の内容は、全編に共通するテーマでもある。何をもって幸せとするか。ある人にとっては経済的成功であり、ある人にとっては都会の喧騒から逃れることかもしれない。一つ言えるのは、人に押し付けられるものではないということ。



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