荻原 浩 28 | ||
花のさくら通り |
『なかよし小鳩組』以来、実に約14年ぶりに愛すべきユニバーサル広告社の面々が帰ってきた。前作で超困難なミッションを成し遂げた彼らの次なる仕事は…。
不況の折、ユニバーサル広告社は都心から家賃が安い郊外に移転せざるを得なくなった。その場所とは、駅から遠い寂れた商店街にある和菓子店の2階。しかも、杉山は3階に居住することになった。今回のクライアントが、その「さくら通り商店街」なのだ。
手始めに、「さくら祭り」のポスター作成を請け負うが、6月なのになぜ「さくら祭り」なんだとか内部からも突っ込まれる始末。そもそも桜並木があったのに、伐採してしまった。商店会員はあくまで個人事業主であり、一枚岩とはいかない。一方、さくら通りの中ほどを曲がった桜ヶ坂には桜並木が残るが、若い店主たちは商店会にそっぽを向いている。
そんな中、杉山たちが商店会と交流を深めるきっかけとなったのは、序盤に描かれる連続放火事件である。自警団を結成し、犯人を捕まえてやると息巻く面々。根底にあるのは、地域への、商店街への愛着。どんなに寂れようと、自分たちの庭なのだから。
協力的な店主も徐々に現れた。桜ヶ丘を引き込むことにも成功。祭りでは別人のように活躍する社長の石井に、杉山も驚く。近隣のニュータウンへも積極攻勢をかける。確実に変わりつつあった。すると、商店会トップから邪魔が入るというお約束の展開に…。
本作に特定の主人公はいない。長編ながら、色々なエピソードが詰まっている。寺の長男と教会の娘の禁断(?)の恋。事務所の1階にある和菓子店の長男、守と杉山の交流。無口で不器用な彼が、大企業を辞めた事情は身につまされる。杉山が違う意味で不器用なだけに。前作まであまり目立たなかった村崎や猪熊の活躍にも注目したい。
ラストは商店会トップとの対決になるが、どうなるかは読んでください。さくら通り商店会の有様は、全国の商店会や、会社の縮図ではないか。しかし、上が悪いというのは言い訳だ。そうやって、電機大手各社は没落したのだ。どうやって場を動かすか。
最後のCMカット案は、話題になったJR九州の九州新幹線全線開通キャンペーンのCMを連想させる。さくら通り商店街に、ユニバーサル広告社に幸あれ。